一刹那も君を求めて (スティラルカ×歩) 一目見た時から、本当に貴女心奪われていたと。 そう、言ったら信じますか? 運命のあの日、路地裏で見付けた後ろ姿。暗がりでも解る程に、寂しげに揺れる小さな背中は。偶然か、必然か。どちらにせよ確実に、一瞬にして私の興味を引いた。 ああ、あれが。イヴの娘か、と。 確かあの時は、迷う事無く近付いて肩を叩いた。そうしたら恐ろしく過剰に反応して警戒心露わに睨み付けられた。 初対面なのだから当然と言えば当然だが、全く信用していない、不審者へ向ける表情だったと記憶している。その態度は、自分の性格の所為か彼女の性格の所為か、一日経とうと二日経とうと一向に変わりはしなかった。そうして毎日毎日、噛み合わない会話にもならないやり取りを続けて、続けて。 時折私の前を行く貴女の後ろ姿を眺めては、その背中に憂いや拒絶が無い事を喜ばしく思う。どれ程に悪態や罵倒を重ねられても、嫌悪はされていないと、傍に居る事を苦痛としてはいないと、教えてくれるから。下らないと嘲笑う口端とは裏腹に、熱となって胸に積もる愛しさはどうしようもなく私を満たす。 「スティラルカ?…ぼーっと突っ立って何やってんのよ」 「聞いて下さい歩さん。私、変態だとは思っていましたがおバカさんでもあったとは意外でした。意外過ぎて顎が外れそうです」 「…………は?」 唐突な科白に暫く呆気に取られていた少女は、次の瞬間いつもの事かと呆れに顔を歪めて踵を返した。足早に歩く彼女にほんの二三歩で追い付いて、今度は此方から声を掛けてみる。 「歩さーん」 「……今度は何よ」 「歩さんはスッチーの運命です!ほら赤い糸が小指に」 「バカじゃないの」 深く吐き出された溜息を、心底呆れているだろうその表情を、全く不快に思わない理由は。 「本当ですって!スッチーには見えます真っ赤な極太い糸が!」 「何それ物凄い迷惑なんですけど!!」 「嫌だなあ、照れないで下さいよー」 「ちっっとも照れてないから!」 いつか、本当を口にしてみようか。本当に、真面目に。 スッチーは歩さんバカなんですよと。そうしたら貴女は、どんな顔をするだろうか。きっと今日と同じ様に、けれど今日とは少し違って、バカじゃないのと視線を逸らすのだろう。 END |