メランコリックリリィ




ひゅ、と一陣の風が吹いた。今の季節には、有り難いが少々似つかわしくないそれに肌寒さを感じて、半袖から覗く自らの腕を摩ろうとした少女はけれど次の瞬間その手を止めた。


「え」


たった今全身を突き抜けていった冷たい風が残した薫りは、余りにも予想外のもので。


「何…?」


一瞬脳裏に浮かんだ残像。それは、この世界には居ない彼の姿だった。手土産だけを託して、自身は遠く宇宙すらも隔たったあの世界に残った人。


「何、よ…今更」


貴方が確かに存在したという証拠を持っていない今ぐらい貴方の事を忘れさせて欲しい、と少女は思う。
己の記憶を常にその存在で占領させているクセに少し貴方から離れているこの時間も尚、解放してはくれないつもりだろうか。


「…ほんと、むかつく…っ」


手を放したのは貴方でしょうと、言葉にする前に再び、彼の薫りを残す冷たい風が少女の身体を吹き抜けた。


END