「好きな子程虐めたくなるって言うよね」
ぽろりと口をついて出た言葉に返事が返ってくる事はなかった。小さく溜息を吐いて理由を考えてみる。
例えば本当に嫌いな相手だったら話すのも嫌だと思うのだ。酷い時は近付く事すらお断りという人だって居る。安易だが、人間とはそんなもので好きな相手には近付くし嫌いな相手には近付かない。どうでもいい人間という一番厄介な相手については人それぞれだと思うが恐らく彼は近付きはしないだろう。尤も、彼は自分から歩み寄る事を先ずしないのだが。
そんなある種解り易過ぎる男が、愛の言葉一つ満足に吐きもしない男が、それでも自分を傍に置いているのは。何処かへ行くなら行ってしまえと冷たく放って次に互いを繋ぐ糸を切る振りをしておきながら此方の反応を窺う様にその細く薄い蜘蛛の糸をくいと引っ張るのは。
「やっぱりそれしかないわ」
「さっきから何をブツブツ言っている」
全てはアイロニーであると、背中合わせで居る彼の不機嫌そうな声と共に此方へと掛かる体重が増したのは恐らくきっとそういう事なのだ。
アシメトリーに恋をする