―あの人が興味を示すのは…

「あっ、タカ丸さんあと半時程したら火薬倉庫の前まで来ていただけますか?」
日も傾きかけた頃、食堂へ向かうであろうタカ丸さんを呼び止めて用件のみを手
短に伝えた
「ん?いいよ!火薬倉庫だね」
タカ丸さんは何の疑問も持たずに笑顔で答えてくれた

あの人はいつも「綾部の髪は綺麗だね」とか「髪を結わせてくれる?」など私に話
しかけるのは髪のことばかり
先日、私から告白して良い返事をもらい付き合い始めたはずだ、しかし何一つ進
歩もないし、もしかしたら私の聞き間違いか最悪夢でも見たのか、など私らしく
もなくマイナス思考になっている

「なんとかして、髪の毛以外の場所に触れて欲しい、というか手を繋いでみたい!!

そんなことを思った私は一つの作戦を考えた
「(大丈夫、仕込みもバッチリだし)」
そう意気込み、一人火薬倉庫へと歩を進めた

「…綾部の用事はなんだろう??」
先ほど綾部に言われた事が気になり、箸の進みが疎かになっていると後ろから声
をかけられた

「タカ丸さん」
「あ!久々知くん」
声の主は久々知くんだった
「その冷や奴食べないなら頂けますか?」
「えっ?あっ…あぁー」
手元を見ると、おかずの焼き魚はぐちゃぐちゃ(考え事をしながらつついていたの
だろう)になっており、膳の右上の方に置かれている冷や奴は手付かずの状態だっ

「久々知くんにあげるよ」
「!!♪」
久々知くんは本当に貰えると思っていなかったのか嬉しそうな顔で冷や奴を食べ
始めた
「そーいえば」
「ん??」
豆腐に集中すると思っていた久々知くんが急に話しを振ってきた
「綾部に聞いたんですけど、お二人は付き合ってるんですよね?」
「えっ////」
「あぁ、大丈夫ですよ、他の人には言ってませんから」
「…うん」
「タカ丸さん、綾部と付き合い始めて何か進歩はありましたか??」
「えっ////…進歩って言ってもまだ一週間しか…」
「一週間もあれば、(人によっては)手を繋いだり、接吻したりとかいろいろ進歩
もありますよね??」
「えぇぇっ////そっ…そういうものなの?」
僕は今まで恋仲になる人がいたわけでもなく、いわば恋愛に疎いタイプだったた
め、久々知くんの言葉にはものすごく驚いた
「綾部、結構落ち込んでましたよ、タカ丸さんは本当は自分の事好いていないの
に無理してるんじゃって」
「そっ…そんな事」
その時僕の頭に一つの考えが浮かんだ
「(もしかしたら、綾部の用事はこんな僕に呆れてサヨナラしたい…とか)」
そう考えた途端全身の血がサァッと引いていくのがわかった
「ご…ごめん久々知くん、僕ちょっと用事がっ」
そう言って僕は食堂から走り去った
「…これで綾部からも冷や奴もらえるかな」
久々知くんがそんな事を呟いたが、僕の耳にはもぅ届かなかった

「(タカ丸さん、遅いなぁ)」
そんな事を一人考えていると
「綾部!!!」
物凄い速さでタカ丸さんが走ってくるのが見えた
「…っつ…はぁ、綾部っ」
タカ丸さんは僕の数歩前で止まり、息を整えるとポツリポツリと話し出した
「綾部、僕…ね、恥ずかしいんだけど、綾部が初めてのこっ…恋人なんだっ///だ
から、だからね、普通の人達のペースってのが分からなくて…その、不安にさせ
たならごめんなさい、謝るから僕を捨てないでっ」
「捨てませんよ」
「…へっ!?」
タカ丸さんが丸い目をクリクリさせて此方を見る
「確かに不安はありましたけど、それぐらいでタカ丸さんを嫌いにはなりません

そう言ってタカ丸さんに手を差し出す
「綾…部っっ!!!?」
私の手を取ろうとしたタカ丸さんが塹壕に落ちていく

綾部の手を取ろうと足を踏み出した瞬間足元が崩れた
「(えっ??何で!?)」
一瞬の出来事に思考がついて行かずポカンと上を見上げると、塹壕の縁に綾部が
しゃがみこみ、手を差し出していた
「すいません、どうしても…か…です」
「へっ??」
綾部の発した言葉が上手く聞き取れなかった事と、初めて握った手が意外に華奢
だった(こんな手で毎日穴を掘っているのか)ということに驚いていると、綾部の
体がこちらへ傾いた
「(危ないっ!?)」
そう思った時にはもぅ、綾部の体を抱き留め二人で塹壕に倒れ込んでいた
「綾部っ!?大丈夫??どうしたの、引き上げるはずの君が倒れ込んでくるなんて??

「…す」
「へっ??」
綾部の言葉に耳を傾けると
「…手を、握って欲しかったんです…あと、できれば…抱き…しめてほしくて///

耳まで真っ赤に染まる綾部を見て、綾部のこんな姿が見られるのは、というか綾
部にこんな顔させられるのは僕だけだと優越感に浸ったことは綾部にはナイショ
にしておこう




君に近づきたいんです






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -