****
「…おや、見つかってしまった」
ぼそりと呟いてス、と軽く身を引いた次の瞬間。鋭い何かが耳元を掠める。それからひとつため息をついた真っ黒な大男、雑渡昆奈門は目線をそこへ移した。

「また来たなくせ者!今日こそ私とバレーしよう!!」

大きな声で叫ぶのは、忍術学園の六年生、七松小平太だ。右手に苦無を持ち目はらんらんと楽しそうに輝いている。
「君も懲りないね。私は医務室に用があるんだよ、君の相手をしている暇は…」
「問答無用!!!」

言い終える前に小平太は雑渡に突進し苦無を振りかぶる。しかしそれもひらりとかわされ刃は空を切るばかりだ。
「このっ逃げるな!」

「逃げるよ。せっかくの休みなんだ、動きたくない」

「なははっそれもそうか!だがつき合ってもらうぞ!」

「…っと、いけどん君、バレーをやるんじゃないのかい?」

「ああ!その前のっ、準備、運動だ!」
会話をしている間も、激しい攻防は続いていた。
(こうも騒いでいたら事務員くんにも見つかってしまう、どうしたものか…) 
小平太の攻撃を全て鮮やかに避けながら雑渡は思案する。しかしそこでふとした違和感。
「いけどん君、ちょっとストップ」

そう言って苦無を握る小平太の腕を掴み反対の手でぺたりと彼の額に触れた。一瞬の出来事に珍しく驚いた小平太は動きを止めてきょとんとしている。
「なんだ!」
「どうやら医務室へ行かなければならないのは君のほうだね。気付いていたかい?」

「なんのことだ!」

「うん、やはり気付いていないよね…やれやれ」

先ほどから繰り出される攻撃に全くキレがないのだ。雑渡は深々ため息をつき小平太を見やる。

「体調管理もできないようでは一流の忍者にはなれないよ。もっと自分を省みなさい」
「これくらい平気だぞ!そんなことより私はお前と勝負がしたいっ」

これ以上言っても埒があかないと悟った雑渡は少々強引だが彼を動けなくさせてしまおうと早速行動にでる。

後頭部に手刀を一発。

「っ!!」

カランと苦無を地面に落とし倒れ込む小平太を軽々担いだ雑渡は医務室へ向かうべく歩き出した。

園田村の一件から、学園へ来る度小平太と、それから文次郎に勝負を挑まれるようになった。
これでも城に仕える忍隊の組頭だ。気配を完全に消しさえすれば彼らに見つかることもないが……それをしないのは、まあ、そういうことなのだろう。
「つくづく飽きないね…この学園の子どもたちは」

思わず笑みがこぼれるほど、将来が楽しみなのだ。
ふと、遠くで部下の尊奈門の声が聞こえてきた。毎度くっついてきては土井半助に勝負を仕掛けている。彼も全く懲りていない。
なんとなく、土井半助の気持ちがわかるような気がするなあとしみじみ思い、歩を速めた。

****おわり。


煩わしくも、眩しい日常。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -