泣かないで、泣かないで。
泣いてるきみを見たくない。日だまりみたいに暖かくて、澄んだ青空みたいに明るく笑うきみが見たいんだ。

泣かないで、泣かないで。
泣いてるきみを見たくない!

どうしよう、僕はどうすればいい?
笑ってほしい。それなのに僕はきみの気持ちも考えず、きみを余計に怒らせて、余計に泣かせてしまった……

大好きなんだ。笑ってほしいんだ。

「……どうしよう、三治郎に謝らなきゃ…」

どうしてもきみの笑顔が見たくて、僕は急いで部屋を飛び出したーーー

***

「もう…三治郎。泣かないでよぅ」

「うっ…ふぇっ…だってぇ〜」

無事に仲直りをすませたけれど、三治郎は一向に泣き止んでくれない。

「ひっく…へ、兵太夫がっ、ぼくのために、かわいいからくり、見せてくれたのに!ぼく、あんなひどいこッ…うあぁんごめんねぇ!」

しゃくりあげながら謝る三治郎。眉尻をさげる兵太夫が大丈夫だよ、気にしてないよと伝えるけれど、ポロポロ雫がこぼれ落ちて三治郎のほっぺたはぐしょぐしょだった。

参ったなあ…どうしたらいいんだろう…

「えーっと…こういうときは……えい!」

「はゎ!?」

兵太夫は思い切りぎゅうっと、三治郎を抱き寄せた。突然のことに驚いた三治郎は一瞬だけ目を丸くして涙をひっこめる。

「へ、兵太夫…?」
「作法委員長の立花先輩がね、僕が伝七とけんかをして怒られたときや怪我をして泣いてるとそのたびにこうして抱きしめてくれるんだ」

囁きながらポンポン、と三治郎の背中を優しく撫でる。

「立花先輩は怒るととても怖いひとだけど、ぎゅっとしてくれるときは優しくてあったかいんだ」


それまで大人しく耳を傾けていた三治郎はゆっくりと身じろいで兵太夫の背に腕をまわした。

「…竹谷先輩も、おんなじことしてくれるよ。これって委員会の伝統なのかなあ」

三治郎はふふ、と嬉しそうに笑った。そのとき突然兵太夫が腕を外して三治郎の顔を覗き込む。あまりにも急だったため再び驚いた。

「ど、どうしたの兵太夫?」
「三治郎、今、笑った…?」

真面目な顔をして聞いてくる兵太夫が無性におかしくてふはっ、と吹き出してしまった。

「あはは、兵太夫なにその変な質問!」

お腹を押さえてけらけら笑う三治郎をみて兵太夫は良かった!と嬉しそうに声をあげた。

「三治郎が笑ってくれた!僕、うれし…っう…うぅえーーん」

急に泣き出してしまった兵太夫にぎょっとして三治郎はあわあわと焦る。

「兵太夫っ?なんで泣くのさ!ぼくは君のおかげで笑えるようになったのに!」

三治郎はそう言いながら慌ててぎゅうっと兵太夫を抱き寄せた。

「三治郎、もう笑ってくれないと思ったんだよぅ…っひ、く!うれしいぃ〜」

兵太夫は三治郎を抱きしめ返してわんわん泣きじゃくっている。

「嬉しいなら泣き止んでよ〜…う…ぼくだってまだ…っ涙腺が…ふぇえ…」

泣いている兵太夫をみて、三治郎はもらい泣きしてしまったのかせっかく止まった涙が再びぽろぽろ溢れ出した。
「ふ、あははっ…ほらまた涙出てきちゃったじゃないか、くすん」

流れる涙をそのままに、三治郎は時折鼻をすすりながら笑う。
「ごめんね三治郎〜!」

兵太夫も泣きながら、頬は綻んでいた。
「もういいってば!泣かないで兵太夫!」
「っっ?ぇ!?」

泣かないで、そう言ってちゅ、と軽いリップ音。三治郎は兵太夫の目元に小さく口付けた。それに驚いて、兵太夫は目を見開き、次いで顔がどんどん赤く染まっていく。
「しょっぱいねぇ。って、兵太夫顔真っ赤っか!かわいい!!」

いたずらめかした顔で微笑み、兵太夫、大好きだよ!と告げた。

「〜〜っ、僕の方が三治郎のこと大好きだよ!!!」

赤い顔をして、一矢報いてやろうと三治郎の腕を引っ張り顔を近づけ、柔らかい頬をちゅう、とついばむ。

「……!ふわ、恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい…」

口付けられて熱くなった自分の頬に手で触れて、囁く。
最後の涙がぱた、と満足そうに微笑む兵太夫の手のひらを濡らした。

***

愛しいきみの、大好きな笑顔が見られるならぼくは、どんなことだってしてあげる。

***おわり。
きみを笑顔にする魔法


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