〜もしも勘ちゃんが猫だったら〜

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(にゃーん!おれはかんえもん猫!ここの主、くくちへいすけに飼われている毛並みのしっとりもったりした黒猫だ!)

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今日はとてもいい天気。春先のぽかぽかした陽気にのんびり当たりながら縁側でぬくぬくと日向ぼっこをしていたかんえもん猫でありましたが…

「かーんちゃん。日向ぼっこ?俺もお邪魔するよ」

この長家の主、久々知兵助がとたとた近づいてきてとすっとかんえもん猫の隣に座りました。かんえもん猫はちらりと隣を見上げて再び夢の中へ。
「うに…ぅなー…」
(なんだ。へーすけか。おれ今眠いんだよー…………?)


隣を無視して寝ようとしていたのに。なんだか、視線を感じて…それも、熱視線。春の心地よい涼しさが夏の溶けるような暑さに変わった、そんな気がしてしまうほどの熱い熱い眼差しを、自分の隣から感じます。

「に…にゃふ…にゃう!」
(やばい…これは逃げないとおれ………とりゃ!!)

ババッと縁側から飛び降りようとしましたが………

「にゃ!にゃーーーっっ」
(うわぁ!はなせぇーーーっっ)

「なんで逃げるのさ、かんちゃん。逃がさないよ」

兵助は顔を真っ赤にしてじたばたもがくかんえもん猫をにっこり余裕な笑顔でぎゅっと抱き締めます。ちなみにこれは日常茶飯事。
兵助はかんえもん猫が可愛くて可愛くて、一日一回はこうしてぎゅうっと抱き締めてくるのです。あまり人に触られるのが好きではないかんえもん猫にとって、この行為はちょっと苦手でした。撫でられるのは好きです。でも、全身を自由に動かせなくなるのは嫌いなのです。それなのに兵助は、毎日抱きに来ます。

「なぅうう〜…にゃあ!」
(うぅ〜!離せよへいすけ!)

「よしよし。今日もかんちゃんは可愛いな。ずっとこうしていたい…」

うっとりと、かんえもん猫を愛でます。未だに暴れるかんえもん猫を、若干、痛みを感じない程度に力ずくで押さえ込んでさらさらと撫でるのです。その辺の力加減は、五年い組の秀才と言われる兵助なので、絶妙なのです。

「ごろ……に!?にゃにゃーっっ!!!」
(ん…っ……わ!?ばばばか!そこはっ!)

暴れるかんえもん猫を大人しくさせるのなんて、兵助にとっては呼吸をするのと同じくらい簡単。

「あまり暴れるなよ。…まあ、ここを撫でれば…かんちゃんの、弱いとこ」

そう言って、人差し指で優しく優しく、尻尾の先から付け根までをつつーっと撫で回します。ここを触られたら、かんえもん猫は大人しくなるのです。
「んにーっ…にゃん!」
(ふっ…ふぇ!…やぁ!)

しなる身体を兵助が支えてやり、かんえもん猫の力が抜けるまでなで続けるのです。

「ふにゃー… 」
(ん…も、むりぃ…)

くて、っと兵助の膝に身体を投げ出したかんえもん猫。こうなってしまえば、兵助の勝ち。あとは兵助の思いのまま。

「かんちゃん。気持ちいい?」

おでこから耳の裏、それから背中とお尻。手のひらで思う存分、かんえもん猫の感触を楽しみます。

「に。にゃう」
(うるさい。もっと撫でろ!)

先ほどのぽかぽか陽気よりも暖かくて優しくて……実は、かんえもん猫は兵助に撫でられるの、嫌いではなかったりします。ただ、恥ずかしいだけ。素直になれないだけ。それに抵抗すると、何故か兵助が嬉しそうにするので、かんえもん猫はそんな兵助が見たくて、大好きな兵助の笑う顔が見たくて、毎日ここへ来て撫でられてやるのです。

「ふん」
(ふん、だ)

顔と耳どころか全身を真っ赤にして、大切にしているこの時間を、かんえもん猫は愛おしく思いました。

「ねえ、かんちゃん。ヒト型になれる?」

ぽしょっと耳元で兵助が囁きます。うとうとしているかんえもん猫は少し身じろいでこくんと頷きます。
そして、ぽむっと可愛らしい音とともにかんえもん猫は兵助と同じ年頃の少年に姿を変えました。

「…ぅー…にゃんだよ兵助…おれねむい…」

肉球はないけれど柔らかい手の甲で目をこしこし擦って兵助の身体に背を預けて今にも眠ってしまいそう。

「続きは、部屋でしようか」

兵助はくすりと微笑んで、勘右衛門を抱き上げます。勘右衛門はゆらゆら揺れる自分の身体をぼうっと感じていました。

「つづき…おう…もっと、たくさんなでて…」

勘右衛門の、初めて兵助に会った時の抵抗は本当に凄まじいものでした。他の人間にも、懐くことはありませんでした。けれど、ひと目で勘右衛門を好きになってしまった兵助の執念も相当で、今となってはあれだけ暴れていた勘右衛門をここまで骨抜きにしてしまうのは、この世界どこを捜しても、兵助ただひとりなのです。

***
暴れる勘右衛門を大人しくさせることができたときの達成感は、俺の人生で最も大きく、最も愛おしいものになった

****おわり。



愛しのにゃんこ





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