「兵助、おれに何かしてほしいことある?」

「…いや、特に」
「えー…何か無い?何でもいいよ!」

「勘ちゃん急にどうしたの?」
「学園長からのお年玉!おれのお年玉は、“久々知兵助の命令を有無を言わず叶えること” だったんだー」

「それって勘ちゃんじゃなくて俺のお年玉なんじゃ…」
「いいからいいから!ほら、何が欲しい?」

「…欲しいもの?」
「うん!おれがあげられるものならなんだって!」

「じゃあ、勘ちゃんを俺にちょうだい?」
「へ…?おれ?」

「っ……あ、ごめん!やっぱり何でもな……」
「…いいよ」
「え?」
「いいよ、兵助。兵助にだったら、おれ…」

「な、か、勘ちゃん?」
「だって、ずっとおれ、兵助のこと………」

−−−そこでふつりと、途切れた。

ガバッと勢いよく起き上がって、ハァーっと深いため息をついた。
「…俺はなんでこんな夢を…」

小さく呟いて隣で静かに寝息をたてている同室を見つめる。

(勘右衛門がほしい、なんて、俺も大胆なことを言う…ああ、夢だから言えるのか)

己の心に正直な願い。しかしそれは、夢から覚めてしまえばもう二度と口にすることはできないのだ。
(勘右衛門は男で、俺も男。五年間ずっと一緒にいてくれた、大切な大切な親友。…俺のこの汚れた欲望は、絶対に勘ちゃんに知られては駄目なんだ。一生、死ぬまで)

一体いつからだろう。この気持ちを抑えられなくなったのは。もう覚えていない気がする。でもきっと、出会った頃から…

「…俺は、勘ちゃんが好きだよ」

本当にか細い声だがハッキリと言葉として紡ぎ出された真実。

(この気持ちを伝えたら…勘右衛門はどんな反応をするかな。きっといつもの愛らしい笑顔で、おれも好きだよ兵助!って言ってくれるんだろうな)

ふ、と自嘲気味に笑って考えるのを止めた。そして、これにもうんざりしてしまうのだが−欲望に忠実な己の半身が先ほどの夢に反応してしまったらしい。鎮めなければと思い、いつものように厠へ行こうとしたとき。

「…んぅ…と、にゅうなべ……しめはうどん…?」

そんな寝言とともに、勘右衛門がくるりと寝返りを打った。

どんな夢を見ているんだろう。おかしくて頬を緩める。こちらを向いた、勘右衛門の寝顔。笑った顔も怒った顔も好きだが、すやすや眠る勘右衛門の顔もとても愛おしいと思う。
しばらく見つめて、そしてじくじくとした痛みが心臓のあたりを這う。ひどく罪悪感を感じてしまう。でも、それでも。

「これだけは許して…」

そう呟いて、静かに顔を近づけ…唇の端に、自分のそれを押し当てた。
そしていつものようにすぐ離れて、いい加減にしないと理性がもたないと思い、そっと、部屋をあとにする−−−

****

「わあ!お鍋だお鍋!嬉しーなあ!いただきま〜す…もぐ、美味いーっ!」

もぐ、もぐ、……

「んく。ぷわあ、おいしかった。初めて食べる味だったなあ。まろやかで優しい味…何鍋だろ?」

「それは豆乳鍋だよ」
「兵助!うわわ、ごめん!おれ、ひとりで全部食べちゃっ…!!」

「ああ、大丈夫。それは勘ちゃんのために作ったんだ」

「ほんと!?兵助ありがとう!でも兵助、お腹空いてない?」

「俺にはしめがあるから」
「あ、そうか!雑炊にする?それとも…」

「勘ちゃん」
「へ?」
「豆乳鍋のしめは勘ちゃんにする」
「ど…ゆうこと…兵助?近……」

−−−
(…変な夢みた)

自分が覚醒したのがわかったが、まだ少し微睡んでいたので目を開けることができなかった。

(でも兵助が出る夢だったから嬉しいな〜。今日は良いことありそう)

だんだん目が覚めてゆく。ふと、隣が身じろいだ気配を感じた。
(?、兵助もう起きるのか。じゃあおれも起き…)

そこまで考えて、目を開こうとした瞬間。

唇の端に、やわくて温かいものが触れ…しかしそれはすぐ離れてぬくもりも何もかも消えてしまった。

数秒と経たずに戸を開ける音が聞こえ、同室が部屋を出て行ったのだとぼんやり思った。

「…何、今の…?」

触れられたところに触って、呟く。

(え、もしかしておれ、接吻、された…のか?)

頭の中でひとつの答えにたどり着いてみるみるうちに顔どころか体中が火照る。

(〜っ…なん、兵助?え、え?)

両手で口元を押さえて布団のなかでパニックになってしまった。
そしてガバッと、勢いよく起き上がって……五年間ずっと一緒にいてくれた親友の、初めてされた行為の意味を理解しようと、勘右衛門は長く悩まされることになるのだった。

****おわり。
種の芽吹きは、そう遠くないかも…


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