「ねぇ、綾部。ぇっと…ぁの…今日も、させてくれる?」
遠慮がちに尋ねてきた声を聞いて、湯冷めしていた頬に少しだけ熱が戻る。
「…はい。」
忍たま長屋・斉藤タカ丸の部屋にて。
「わぁ〜、やっぱり綾部の髪はキレイだねぇ。ふわふわで触り心地もいいよ〜。

「…ありがとうございます。」
タカ丸さんに頼まれて、休日の前夜はこうして風呂上がりに髪結いの練習台にな
っている。
「あっ、そうだ綾部、明日の休み空いてるかなぁ?」 「特に予定は…どうかし
たのですか?」
「へへ〜。実はうちの近くにとーっても美味しいって噂の団子屋さんができたん
だ。だからさ一緒にどうかなぁと思って〜。」
(2人きりで…?)
少し胸が高鳴る。
「みっきーとたっきーも誘って。」
満面の笑みでそう言われた瞬間、
(…よし、朝になったら2人には落ちてもらおう。)そんな物騒なことを考えた。
「うんっ。今日はこれで終わり〜。いつもありがとう綾部。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
礼を返すと、タカ丸さんが急にシュンとなった。
「?…どうしたんですか?」」
「あの…毎回こんな事頼んじゃってごめんね。もし迷惑だったらって…ずっとそ
れが心配で…」
(そんな事を考えていたのか。)
タカ丸さんは年上でとても大人びているけれど、どこか可愛らしいと思ってしま
う。
「あっあの、綾部…?」
そう思っている間、黙ってずっとタカ丸さんの顔を見ていたらしい。その沈黙に
耐えきれないようにタカ丸さんが私の名を呼ぶ。
「そんな心配しないで下さい。私は、貴方に触れてもらうのは好きです。」
返事の代わりこんな事を口にしてみる。
「タカ丸さんの手はとても心地良くて好きです。」
「本当?
よかったぁ〜。」
ホッとしたように顔がほころぶ。
ふわりと笑んだタカ丸さんを見て、触れたいという衝動が暴れだす。
それを押さえ込むのに必死になっていると、
「あっ、そうだ。いつも付き合ってくれるお礼に何か僕にできることはない?」
「「お礼…ですか?」
「うん!僕にできることなら何でもいいよ〜。」
(−貴方に触れたいです。)最初に頭に浮かぶのはやっぱりこんな事で…
けれど言ってしまってタカ丸さんを困らせるのも嫌だと思う。どうしよう…
(あぁ、そうだ。)
「では、タカ丸さんの髪を結わせてください。」
触れる口実になると思い、口にしてみる。
「綾部が…僕の?」
「はい。いつもとは逆に。」「いいよ〜。僕が教えてあげる。」
にこりと笑う。
フツリと何かが切れる音。ちょうど視線の先、はだけた寝巻きの襟元から覗く鎖
骨に口づけた。
「わぁっ、あ、綾部???」
顔を真っ赤にして驚いたタカ丸さんが両手で肩を掴んできた。
「嫌でしたか?」
そう聞くと、しどろもどろになりながら、でもはっきりとした口調で。
「…ううん、綾部になら大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃったけど。」
照れて笑いながらそう言ってくれた。
(押し倒してしまいたい。)でもそれは流石に自重した。
「では明日の朝、またおじゃましますね。」
「うん。待ってる。お団子いーっぱい食べようね。」笑みを交わし、
「おやすみなさい。」
と言って部屋をあとにする。
今日は本当に良い日だった。嬉しくて緩んでしまう頬を引き締めて、同学年の滝
夜叉丸と三木ヱ門の部屋へと向かった。



結わうは、その 心


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