(あの子たちは一体どこへ行くんだろう…)

きゃっきゃと楽しそうにはしゃぎながら出かけていくくのいちたちを見送っていると、後ろから声をかけられた。

「おやぁ?綾部。こんなとこで何してるの?」
「…タカ丸さんこそ」

振り返ると私服姿で小さな包みを手にした斉藤タカ丸がいつものほわほわとした空気をまとって立っていた。

「僕はねぇお使いの帰りなんだ」
「そうですか。おかえりなさい」

ただいま〜と挨拶を交わしてしばし二人の間に和やかな空気が流れる。

「それで、綾部は何してたの?いつもは何か起こらない限り学園の敷地内にしか穴は掘らないのに…」
そう言って、ちらりと側にあいた穴を見て聞いてみる。
「実は、かくかくしかじかで」

「へぇ。そんな事があったの。一体どこへ行ったんだろうねぇ」
「さぁ…」

二人で首を傾げて考えていると、タカ丸が何か思いついたように声を上げた。
「もしかして、これを食べに行ったんじゃないかなあ」

差し出された包みを見ると、美味そうな団子が入っていて綾部はタカ丸を見上げる。
「最近できたお団子屋さんだよ。ちょっと寄り道して買ってきちゃった」

後で一緒に食べよう、と満面の笑みで誘われて綾部はぽわっと胸が温かくなるのを感じた。
「いいですね。では私がお茶をいれます」
つられてにこっと頬を緩めて返事をすると、何故かタカ丸が顔を赤くしてそわそわしだしたので綾部は不思議そうに彼の顔を覗き込む。
「タカ丸さん?どうかしましたか」

「えっ?や、ううんっ、何でもないよ。ただ、不意打ち……綾部の笑った顔、あまり見られないから…」

あはは、と照れて笑いながら跳ねる心臓を落ち着かせるために短く息を吐く。
「ふう。ごめんねぇ、じゃあ行こうか」
そそと歩き出そうとしたタカ丸だったが、不意に綾部が自分の服の袖をキュッと握りしめたので足を止めた。

「綾部?行かないの?」

「…タカ丸さんは、私が笑うと嬉しいですか?」

質問の意図はよくわからないが、とりあえず頷く。
「うん!嬉しいよ」

「そうですか」
言うと同時に、綾部は掴んでいた袖を引っ張って顔を近づけ、タカ丸の唇にちゅっと小さく口づけた。

突然の出来事に驚いたタカ丸は、さっき冷めたはずの火照りが倍以上になって戻ってきて言葉を発することもままならない。
「私も、タカ丸さんの照れて真っ赤になった顔、好きですよ。その表情が見られるなら、笑うのも悪くないですね」

そう言って、今度はイタズラっぽく頬を緩める。
「な…ぅ、あ、ありがとう…?」
タカ丸は首を傾げつつ、ぽそりと礼を言った。
「さて、戻ってお団子を食べましょう。タカ丸さんもここから入りますか?」
ここ、と指差したのは掘ったばかりの穴だ。
「あ、ぼ、僕は正門から入るよ。入門票にサインしなきゃ」
「では長屋で」

うん、と返事をして穴に潜る綾部を見送ったあと、へにゃっとその場に座り込む。

「ぅわあ…どうしよう…心臓がもたないよ…」

どきどきうるさい胸を押さえて、タカ丸は未だ冷めない頬を撫でるのだった。

****おわり。




不意打ち











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