いつもはジリジリと照りつける太陽を遮り涼しげに揺れる木々の間から漏れる木漏れ日を見つめながら、
忍術学園保健委員会…別名不運委員会は絶賛崖っぷちでした。
それはもう言葉の通り、というか崖っぷちにかかっているのは不運委員長善法寺伊作の左手のみ…その他委員会メンバーは
伊作の右手を掴む三反田数馬
数馬に右足を掴まれている川西左近
そしてその左近に腰ひもを掴まれ宙ぶらりん状態の鶴町伏木蔵の「スッゴいスリル〜♪」
と言う声が森にこだました

さて、何故このような状態になったのかを説明するために時間を戻してみよう

〜〜〜半時前〜〜〜

「よし、準備はいいね♪これから保健委員会、ピクニック兼薬草採りに出発します」
「「「はーい♪」」」

しっかりと出門表にサインをした保健委員会はへっぽこ事務員の小松田さんに見送られ裏山へとでかけたのである

出発から一刻程歩いていると
「あぁぁぁぁぁー!!」
「どうした左近!?」
急に叫んだ左近に全員が注目する
「ど、どどどーしましょう伊作先輩、おばちゃんに作ってもらったお弁当を忘れてしまいました」
「「「えぇぇー」」」
「さっきまで持ってただろ??」
数馬が聞くと
「出門表にサインをする際に小松田さんに預けて…」
小さくなりながら申し訳なさそうに言う左近
「じゃぁ、僕が取ってくるよ」
「え、そんな、僕が忘れたので僕が取りに行きます」
「いや、僕も気づけなかったしこの中じゃきっと一番早く戻ってこれるだろうしね」
「う、すいません…お願いします」
「うん♪じゃぁ、僕が戻るまで数馬、二人をよろしくね」
「はい」

そして次の瞬間伊作は消えた…勘の良い方はお気づきだろう
…そう、落ちたのだ

「「「伊作せんぱーい!!!!」」」
三人が覗き込んだ穴は深さは無いものの土がぬかるみ伊作の足はきれいにはまっていた
仕方なく三人で伊作を引き上げようと引っ張るがなかなか上がらない
三人が渾身の力を込め引っ張りあげるとスポンッと軽快な音と共に伊作の体が宙に舞い
勢いよく引っ張っていた三人は反動で後ろへ下がった
…そこに地面はありませんでした。

「数馬!!」
「左近!!」
「伏木蔵!!」
「スリル〜♪」
なんとか後輩の体を掴み、現在に至ったわけである


「ちょっ…回想長い!!もぅ腕がプルプルなんですけど!!」

あぁ、すいませんね。
でも伊作君、君が手を離すとかわいい後輩達が崖に真っ逆さまなのだよ
頑張ってくれたまえ

「うあぁ、もぅ腕の細胞が死んでく!!」
「「伊作先輩頑張ってー(涙」」
「あ!!こんなときは♪粉もんさーん」
「はーい♪」
「「「!!!???」」」
伏木蔵の声に間髪入れずに応え現れた曲者、雑渡昆奈門は
左近の手から伏木蔵を抱き上げるとひょいっと崖の上へ戻っていった

「組頭!!助けるなら全員助けてくださいよ!!」
「えー、だって伏木蔵が乗ったらもうお膝に空きないしぃ」
「イラッ…」

部下達に助けられた伊作達の目に飛び込んできたのは
般若のような顔をした山本小頭とそれを必死に止める数人の部下
そして頭に大きなコブを作った昆奈門の姿だった

「あ!!左近君大丈夫だったかい??」
「高坂さん!!ありがとうございました///」
左近の頭を撫でながら尋ねる高坂にたじたじな左近

「春ですねぇ」
「春だねぇ」
「本人は自覚がないから厄介ですけどね」

生暖かい目で二人を見守っていた数馬と伊作の会話に急に入ってきたのは山本だった
「山本さんすみません、助けていただいたうえに同行までして頂いて…」
「いや、うちの組頭がどうしても行くと聞かなくてね…」
「そーいや、随分タイミング良く来ましたね…」
「はは、そんな目で見ないでくれ数馬君、察しの通りつけていたんだよ」
「でも今日は朝早くから出掛けたのに良くわかりましたね」
「まぁ、組頭は伏木蔵君のスケジュールを把握しているからね」
「「はははっ…」」
もう乾いた笑いしか出ない二人だった


「そういえば、乱太郎くんはどうしたんだい??」
膝に座る伏木蔵に声をかける
「一年は組が補習なので終わってから合流するんですぅ」
「あぁ、だから尊奈門はあっちへ行ったのか」
「ふぇ??」
「いや、それなら乱太郎くんは尊奈門と一緒に来るだろうなと思ってね…ほらっ」

「土井半助ぇぇ、逃げるなぁぁぁ!!」
「だから、今は授業中なんだって…」

昆奈門が指差した先には
もうスピードで駆け抜ける二つの影とその後を追う小さな大勢の影

「あ、乱太郎!!」
小さな影の中に委員会のメンバーを見つけて手を振る伏木蔵
乱太郎も伏木蔵に気づき駆け寄ってくる
「補習はどーしたの??」
「今日は校外実習だったんだけど途中で諸泉さんが乗り込んできて…」
「やっぱり、すまないね乱太郎くん」
「いえ、僕としては早めにみんなに合流出来たので嬉しい限りです、それに今日の諸泉さんの怒り方がいつもとは違うみたいで…」
「違うって何が??」
「なんか、昨日の夜がどうとか、雰囲気に流されただとか、本当なら自分が"たち"(?)だとかって話してたけど…」
「ふーん…??」
「(なるほど、だから昨日帰ってこなかったのか)」

乱太郎の言葉に首をかしげながら返す伏木蔵と大まかな予想がたった昆奈門

ぐぅぅぅ

場に鳴り響いた腹の音に全員が日が頭上真上に来ていたことを確認した

「先生を追いかけて走ってきたからお腹空いちゃった」
少し恥ずかしそうに頭をかく乱太郎
「す、すまん…お弁当は僕が忘れてしまって…」
お弁当のことを思いだし落ち込む左近
「おい、陣左」
「はい…大丈夫だよ左近君」
高坂はどこからともなくドでかい重箱を出した
「これは??」
「こんなこともあろうかと多目に作ったからね…陣左が」

いかにも自分の功績の様に言う昆奈門

「うぅ〜…高坂さん」
自分を責めていた左近は安堵からポロポロと涙が溢れ出した
「ちょっ…左近君!!?」
急に泣き出した左近にオロオロしてた高坂だったが…
ギュッ
自然と左近を抱き締めていた
「ふぅっっ、ウェ〜ン」

抱き締められたことで涙腺と共に理性も緩み、
人前だとか立場とかを忘れた左近は高坂にぎゅうぅっとしがみつき
大声で鳴き始めたのでみんなは少し離れた所に移動しご飯を食べることにしたのだった


いっぱい遊び日も傾いたため学園に戻ろうと後輩達をみると全員熟睡しており
学園までタソガレドキの方々に送ってもらうことになった

「毎度のことながらすみません」
「なに、嫁の面倒を見るのは旦那の勤めだからね」
「寝言は寝てから行ってくださいね、ってか寝言だとしても許しませんから」
「えー、伏木蔵は良いって言ったのに」
「十歳の子どもになんてこと言ってるんですか!!」
「陣左と左近君の事は嬉しそうに見守っていたくせに、私は伏木蔵を幸せにする自信があるよ」
「あの二人は良いんです!!高坂さんは変態的なオーラもないですし、それから口説き文句なら本人にどうぞ」
「随分きついこと言うようになったね、それに本人口説いて良いの??私は本気だよ、伏木蔵も私を気に入ってるし、第一手放すきも無いがね」
「学園にいる間は僕は彼らの先輩兼保護者ですからチェックが厳しくなるのは当たり前です!!
でも、最終的に決めるのはあの子達です、どんなに周りの大人が口を出そうと最後の判断は己が下すんです
…その時が来たら、あの子達が選んだ道がどんなものだろうと応援してあげようと思います」
「この子達は幸せだね…」
「不運委員会なんて言われてますけどね、運はなくても幸せにはなれるんですよ」


「それではここで、今日はありがとうございました」

保健室の前で別れを告げ後輩達を保健室の布団に寝かせる

「さて、大々的に宣戦布告をされてしまったなどうする伏木蔵」
「ありゃ、ばれてました?」
ムクッと起き上がる伏木蔵
「それがわかってたからあの人もわざといったんだろうしね」
「フフ、伊作先輩、僕保健委員会大好きですよ」
「僕もだよ」
「だから暫くはタソガレドキには行きませんよ♪」
「へ?」
「プロ忍と駆け引きなんてスッゴいスリルですぅ〜」
「はは、雑渡さんもまだまだってことだね」


数年後、それぞれが選んだ道へ進んで行くその日まで
忍を目指すこの学舎で先輩、後輩として委員会のメンバーとして、ひとつの家族のように

一人ひとりが支え合って
今日も前に向かって

人を殺めるためじゃなく
人を救うために

何故ならそれは…





僕らの道


忍者に向いてない??
だって保健委員だもの



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