『接吻を多くする人はそうでない人と比べ5年は長生きできるという説があります』

―――

「…へえ」
パタンと本をゆっくり綴じた雷蔵は先程から自分の背にもたれてうとうとし始めている鉢屋に声をかけた。

「三郎」
んんー?、と体を起こして眠そうな声で返事をした鉢屋を振り返り、すいと顔を近づけてぴたりと軽く唇を合わせ、すぐ離れる。
「………!!?ッな、雷蔵!?」
少々の間をおいてみるみるうちに真っ赤になっていく鉢屋がなんだか可笑しくてふ、と吹き出してしまった。
「はは、三郎かお真っ赤」

「っ、ど、どうしたんだ雷蔵?いや、君からしてくれるなんて嬉しくて仕方ないんだが、珍しいというかなんというか…」

真っ赤な顔を雷蔵から背けてしどろもどろになりながらもう一度、嬉しいんだが…と小声で言った鉢屋に先程まで読んでいた本をす、と差し出す。
「これ読んだんだ」

言われて鉢屋も目を通し、件の部分を読んでからちょっと驚いたように顔を上げて雷蔵を見つめる。
彼の頬もほんのり赤く染まっていた。
「これ読んで…まあ、その…なんとなく?」
急に恥ずかしくなったのかはにかみながら言った雷蔵の口を、今度は鉢屋が塞ぐ。んっ、と鼻から抜ける吐息を漏らして雷蔵は鉢屋の腕をぎゅっと握った。
そのまま、ふたりで床に倒れ込む。
「…そんな事なら、もっと深く繋がって、5年と言わず10年でも20年でも長生きできるように協力するぞ?」
口を放して雷蔵の耳元でそう呟く。
どきどきと心臓が痛くなるほど気持ちが高まっているのがわかる。雷蔵さえよければ、本当にこのまま事に及ぶつもりだった。
しかし…

不意に胸ぐらを捕まれてぐいっと引き寄せられ、再び雷蔵に口づけられる。今度は触れるだけでなく放れる瞬間下唇をペロリと舐められた。
「らいぞ…」
これはOKのサインなのかと尋ねようとすると。
「僕、今から図書室に行ってくるね。明日が休みだから今日は一夜漬けで古書の整理をするんだ」
だから先に寝てていいよ、と先程まで色のある雰囲気だったのにも関わらずするりと鉢屋をかわして笑顔で行ってくる、と戸を開けて雷蔵は出ていった。
ひとりぽつんと取り残された鉢屋はしばしほけっと放心して後、一気に全身が赤くなる。珍しく積極的な雷蔵にとてもときめいていた。
「くそ…力ずくで奪っておけばよかった…」

しかしいざとなるとそんな事はできない鉢屋である。今ので元気になってしまった己の半身をどうしたものかと苦心して裏裏裏山あたりまで猛ダッシュという体育委員会ばりの鍛練メニューをこなすことで気を散らそうと思い立ち、がらっと戸を引いて部屋を後にした。
****
「……ふう。危なかった」
熱くほてった頬にパタパタと手をふって気休め程度の風を送る。
この一節を読んでから結構長い間迷ってあの行動に出たのだ。まさか三郎があそこまでノってくれるとは考えもしなかった。
「逃げかたあからさますぎたかな…」
ぽそっとそんな事を呟く。「5年と言わず10年でも20年でも……か」
遠からず、自分たちは離れ離れにならなければならない。この学園に入学して鉢屋と出会った瞬間からその事は重々承知していた。
でも、それでも。

…ずっと一緒がいい。


5年後も10年後も20年後も、できるなら死ぬまで。


それは彼と出会った瞬間から願い続けてきた僕の我が儘。
---おわり。
双子の甘いやつ…
バレンタインネタ…になるのか?
終わったけどなー。
















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