クリスマスの誓い

 
誕生日だけどシリアス風味な神アレ。
リンクはまだ居ない頃。








「―――クリスマスなんか大っ嫌い」



今年もまた、この日がやってきた。
世間一般では聖なる日。
僕には悪夢の日。
8年経った今でも忘れない。

マナが死んで、マナをAKUMAにして、マナを殺した。
師匠もマザーもマナを助けたんだ、って言うけれど…マナをAKUMAにしたのも僕だから。

あの“愛してる”と言う最期の声が耳から離れない。
今日に近づけば近づくほど、頭に響く声、疼く顔の傷。
小さい頃はそんな頭と傷をよくかきむしっていた。その度にいつも遊び歩いて
「クリスマスなんか絶対帰ってきてやらねぇからな」
と言っていた師匠が隣に居て、抱き締めていてくれた。

師匠が生きてる証。人間が生きてる証。心臓の一定リズムの音が、気持ちを沈めてくれた。
温もりが、安心した。



クリスマスパーティーには少し顔を出して引き上げよう。
神田もこういうパーティーには出ないだろうし、気付かないだろうから。
そう決めて、抜け出しても分かりづらそうな入り口付近に座った。



『メリークリスマースッ!今日は思う存分楽しんじゃってねー! それから、アレンくんハッピーバースデーィッ!!』



乾杯が終わってから何人もお祝いを言いに来てくれた。
その人たちが持ってきてくれたご飯を食べて、少ししてから食堂を出た。



(―――寒っ。上着くらいは持ってきたら良かったかな)



それでも中に戻る気にはならなくて、そのまま教団の正面にあたる門番さんの上に雪を避けて座る。
教団から離れたところにある街の灯りが、冷えた空気で、より一層綺麗だった。

あそこにはたくさんの人が居て、家族や恋人と、キリストの生誕を祝って楽しく過ごしているんだ。

僕たちが守らなきゃいけないもの。



「っ、っ辛いよッマナッ!」



マナを殺してまで生きている自分が、たくさんの人を守らなきゃいけないことが。



「怖いよッマナァッ!」



いつか自分を忘れて、ここにいる大切に人たちを傷つけてしまうかもしれないことが。



「苦しいよッ、っ」


「――だったら、誰かを頼れ。お前は一人じゃないだろ」
「ッな、でっ、神田ッ!?」
「誕生日のカノジョを一人にするほど落ちちゃいねぇ。 お前分かりやすいし」
「なにが…」
「クリスマス嫌いなんだろ?…マナ、ってやつが絡んでんのか?」
「……」



初めて会ったときと同じ。
大きな月を背に、曲がらない意思を持ったその瞳をみる。
違うのは僕たちの関係。

吐く息が冷たい空気に凍らされて、白くなって消えていく。

僕が問いに答えないのを肯定ととったのか、神田はそれ以上は何も聞かないで居てくれた。
かわりに静かに抱き締めてくれる。

頭に響くのは神田の生きている証。
途端に頭に響く声は止んで、傷の疼きもスッと消えていった。



(…そっか。僕は誰かを求めてたんだ。今、すごく安心してる。)



一人になりたくてここに来たけれど、本当は違った。
誰かに一緒に居て、僕の存在を確かにしてほしかったんだ。



「俺はこの命がある限りは、お前を離してやらない。苦しいなら、頼れ」



言いながら少し体を離して、首になにかを提げられた。黒い革のような紐の先に月明かりで光るリング。



「俺はお前の元に帰ってくる。だから、お前も俺の元に帰ってこい」



誓うよ。
このリングに。
リングがダメなら僕たちをいつも見守るあの月に。
月がダメなら、…マナ、貴方に誓おう。

少しだけクリスマスが怖くなくなったよ。
神田が居てくれるから、大丈夫。



父さん。もう心配はいらない。


僕はこの人と自分の足で歩いていくと決めたから。




END




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