モヤシの日

 


日曜日。
今日はどの店も一週間で一番のかきいれ時の日だ。

そして、あいつが来る日。

洗ったコップやら皿やらを拭いているうちに、小気味いいベルの音がして客の来店を報せる。


きっと目を爛々と輝かせた白いあいつ。



「神田神田っ、はいっ!」
「……なんだよその手は」
「何って、わかんないんですか」
「知らね」
「えーっ!楽しみにしてたのにっ」
「だから、なにをだよ」



まぁこの業界に身をおいて、今日この日を知らないはずがないが。
たまにはサプライズをなんてガラにもないことのために、滅多に吐かない嘘をついてみる。



「ポッキー!今日は11月11日ポッキーの日ですっ」
「そーいやそうだな。どこもかきいれ時か」
「むー…このカフェももっとイベントに便乗すればお客さん来るだろうに」
「いいのか、おめぇ。テレビやら雑誌やらで取材されて、隠れ家的カフェなんて言われてここが繁盛しても。そしたらもう、みたらしおまけなんてしてやれねーぞ」
「それは、嫌、ですね…隠れ家じゃなくなっちゃう…」
「だろ?他所は他所、うちはうちだ。わかったら黙ってこれ食ってろ」



サプライズ、ってもただのみたらし付きパフェ。
それを出してやれば、一瞬はてなを浮かべて満面の笑みを見せてくる。



「うわっ、神田ありがとぅ!いつもみたらしだけなのに、パフェもっ。あっ!ポッキー…神田、知ってたの!?」
「あたりめーだ。そんぐらい知ってる」



今日くらい良いだろう。
可愛い想い人へのサプライズだ。
今のうちに餌付けして、然るべき時に大量のみたらしであいつをつり上げる。



365日、いつでも俺のみたらしを食えるようになりたくないか?
なんて。





end





「ところで神田、ポッキーの日なのになんでみたらしがいつもより多いんですか?」
「ポッキーよりみたらしの方が好きだろ、お前」
「まぁ」
「…縦に長けりゃなんでもいいだろ」






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