儚くも美しい華
花火。
それはこの世で最も儚い光の華。
アレン。
それは―――
「神田!今週末隣町で花火大会があるでしょ? アレンくんと神田とラビと私の四人で行くから予定空けといてね☆」
大学からの帰り、たまたま会った年下の幼なじみ・リナリーに言われたのが先日。
断る隙も与えず何を急ぐのか走り去っていった。
そして、今日。
女性陣はリナリー宅。
男性陣はラビ宅集合で俺はラビの家に来ている。
「お、ユウ来たか。んじゃ、さっさと入るさ!着替えねぇと時間ねぇしっ!」
「はぁ!?着替えるってなんにだよっ」
インターホンを押す前に出てきたと思ったら、浴衣を着たラビに家に引きずり込まれて身ぐるみ剥がれて…着せられたのはサイズぴったりの男物の浴衣。
それも30分もしたら着付け完了。
「完成!さっすが俺さっ。ばっちり♪」
「……脱ぐ」
「あぁっやめるさ!せっかく着せたんだから。さ、脱いじまう前にリナリーん家へレッツゴー☆」
押さえ付けられて抵抗も諦めて玄関に行けば、ご丁寧にもこれまたぴったりサイズの下駄もあり…。
浴衣を脱ぐことも叶わず用意された下駄に足を通してリナリーの家に向かった。
…と言っても家が隣同士で集合場所を分けた意味もわからないが。
「リナリー、来たさー。ユウにもちゃんと着せてる」
『了解、今から行くわ♪アレンくんすっっっごく可愛いからびっくりしないでね☆?』
『っや、やめてくださいよぉっ!』
インターホンの向こうから、そんな会話が聞こえて数分。
出てきたのは浴衣を着たリナリーと、リナリーの親友で幼なじみのモヤシ。
俺は絶句した。
モヤシに浴衣が似合い過ぎてて。
水色ベースに紫陽花が描かれた浴衣に朱色の帯。
あわせてあるのか水色と薄紫の鼻緒の下駄。
白い髪には華飾りがしてあった。
「おー、二人とも可愛いさ♪…って、…ユウ!ユウちゃーん?あちゃー、こりゃどっかいっちゃったさね」
「えっ、か、神田っ?どっかおかしいですかっ!?」
「ふふ、違うわよ。アレンくんが可愛いからって固まっちゃってるの♪」
「えぇ!?」
「ほーらっ行くわ、…よっ!」
「ぐふっ!〜〜〜っ、ってめ、…足、でねぇからって、手ぇd 「なぁに☆?」
「…チッ」
「神田っ、僕変じゃないですか?ずっと着てみたかったんですけど…」
「……っ、似合いすぎだっ///」
リナリーにグーパンされて戻ってきたが、そうされなきゃ戻ってこれないくらい破壊力があった。
久しぶりに会ったモヤシがこんなに可愛いくては、ただ隣にいなきゃいけないこの数時間が何かの拷問だとしか思えない。
しかもいつもと違って歩き辛いらしく、ちょこちょこ俺の横を歩いてるその姿も可愛すぎて、今すぐ連れ帰りたかった。
が、花火はこいつも楽しみにしてただろうしそんなわけにもいかず…
人混みを歩けば皆二度見。
見とれる男どもは睨んでやれば慌てて視線を逸らす。
それなのに…
「やっぱ、嫌です…みんな神田を見てる」
なんてアホ言いやがった。
こいつの無自覚は今に始まったことじゃないが、今ほど声を大にして言いたいと思ったことはない。
ちげーだろっ!?
全員、お前を見てんだよ!!
と。
怒鳴るわけにもいかず、舌打ちをひとつして隣を歩くモヤシの手をとった。
びっくりしたようだが、照れ笑いを浮かべて黙って歩き始めたので良しとする。
可愛いなちくしょうっ
それから露店を見て、モヤシはいつも通りいろんなモン食って、今はかき氷を嬉しいそうにつついてる。
土手の石段に座って、花火の時間まで下でやってる露店やら舞踊、太鼓なんかの発表を眺める。
ぼーっと見ていれば、かき氷を食べ終わったモヤシに声をかけられた。
「ねぇ、神田っ。…っその、ゆ、浴衣、…似合って、ますよっ…!」
……なんなんだよっ!?
どんだけ俺を揺する気だっ…!!
くそっ、可愛すぎるっ
そう、悶えたくなるのを堪えて言ってやる。
「…お前もな。他の野郎共に見せるには勿体ねーくらい」
―チュッ
―ヒューーッ……ドンッ
顔を真っ赤にしたモヤシと目があって、どちらからともなく自然とキスした時、見計らったように一発目の花火が上がった。
「わっ……きれー…」
「……っ…///」
体はこっちに向けたまま顔だけを上空に向けて花火を見るモヤシ。
その姿とモヤシの白い肌と髪が、一瞬、色とりどりになるその様が綺麗で
無意識にか“綺麗”“すごい”と言ってることも
デカイのが打ち上がったときに、胸の前で小さく音が出ない程度に拍手するのも
途中、なぜか流れた一筋の涙には驚いたが…
どこか儚い花火のようで
…全てに魅せられた。
花火大会に来たのに俺が見ていたのはほとんどモヤシばかり。
最後のほうにやたら連発したのを見た以外、花火のことは覚えていない。
「花火、綺麗でしたねっ」
花火大会からの帰り道、来たときよりゆっくり歩を進めるなかで、モヤシが言っていた。
「そうだな」
と、素っ気なく答えながら「それを見るお前が綺麗だった」なんて思ってることは胸にしまっておくことにして…とりあえず繋いでた手を引っ張って、また一つキスをおとした。
花火。
それはこの世で最も儚く輝く光の華。
アレン。
それは俺のなかで一生輝く美しい華。
END
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