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ことの始まりは1年前に遡る。
アレンと神田の二人で就いた任務の後だった。



「ふぅ。今日のは結構キツかったですね…level1が多かったのが救いです」
「……」
「神田?」
「…黙って風呂でもいってこい」
「(はぁーっ…ι)…じゃあ、僕、先にシャワー浴びてきますね」
「……あぁ、勝手にしろ」



期待外れにイノセンスはなくAKUMAの破壊だけの任務だった。
ファインダーの報告ではlevel4も多くいて、その数とレベルから教団きっての戦闘力を誇る神田とアレンの二人が駆り出された。

現地に着いてすぐ戦闘が始まり、知能レベルの格段にアップしたlevel4に苦戦を強いられ、数時間かかって全機破壊した。
はじめは真上にあった太陽も、すでに姿を隠し、月へと交代しつつあった。


普段なら終わればゲートで帰還するが、時間や疲労具合を考え、予定していたゲートの設置を翌日にすることになった。
そうして、この日はもしものためにと取っていた宿に泊まることになったのだ。
重ねて、経費削減のため性別・年齢関係なく、エクソシストは二名ずつ同部屋。
二名いたファインダーは既に別のイノセンスの調査に向かっていた。
つまり、この日宿にいたのは、神田とアレンの二人のみだった。










アレンがシャワーを終え浴室から出ると、私服に着替えた神田が部屋から出るところだった。
アレンが浴室から出てきたことに気づいた神田がちらりと振り向くと、その格好をみとめて動きを止めた。



「……お前、女、だったのか…?」
「へ?あ、まぁ、あんなナリしてますけど、そうですよ。教団にも女で登録してますし」
「…ふーん」



アレンから顔を背け一瞬考え事をすると、人には滅多に見せないような笑みを見せた。笑み、と言うよりは何かイタズラでも思い付いた子どものような、ニヤリと不敵な企み顔。



「お前、男いんのか?」
「っ、はぁ!?何考えてんのかと思ったらそんなこと考えてたんですかっ。……いないですよ、そんなの」
「…ほぉ。なら、丁度いい。ちょっと俺に付き合え」



何に付き合うのだろう、などと意味がわかっていなかったアレンは、手を引かれるままベッドルームまでついて行った。
そのままトンとベッドに倒されれば、さすがに何が起こるかは予想がつくわけで…。やめて、と抵抗しても相手は細いが見た目よりずっとガタイのいい男、純粋に力だけではわずか及ばない。

しかも相手が神田ならアレンも拒否はできなかった。
アレンはずっと神田が好きだったから。


その上どんなに望んでいなくてもカラダは正直で…もうどうにでもなれ、と自棄になって恐怖を押し込めて腕を回せば、一瞬動じた神田もすぐに行為に戻った。
キスも行為自体も始めてのアレンは未知の感覚に驚き、神田は昂ったカラダを鎮めるように荒々しく求めあった。


この時、二人の間に愛はない。
少なくとも、神田には。










それからアレンが次に目覚めたのは翌日の昼近く。

少しダルさの残るカラダが、夜の事が嘘ではないと教えてくれた。浴室からは水の流れる音もしていたからなおさら。



「(―――あー、そっか。僕、神田と、…あぁ、僕の純潔よ、さようなら… なんか、思い出したら恥ずかしくなってきたっ…)」
「―――…起きたのか。体、大丈夫ならシャワー浴びてこい」



アレンが考えに耽る間に部屋に戻ってきた神田は、バスタオルで頭をふきながら言った。

「あ、はいっ!!」と答えて、辛うじて羽織っていたブカブカのシャツの前をかき合わせて、バスルームに駆け込んだ。
ベッドから飛び起き、急に動かした腰の辺りが鉛のようにズン、と重かった。


緩めたシャワーから流れる温めのお湯を頭からかぶると少し落ち着いた。
正常な思考が戻ってくる。



「(いつも、あんな風にしてたのかな…戦闘の後、気持ちが昂る事なんて珍しくない……神田は、いつも…

…ていうか、あのシャツ僕のじゃない。神田が着せてくれたのかな。あとで返さなきゃだっ…

…あーっ、神田にその気は無いのに…抵抗しなかったし、不謹慎だけど、)


…嬉しいんだよなぁ」



最後の思いが音となり口に出ていたことには気づかない。
降り注ぐシャワーに混じって、目尻を伝った暖かいものにも。

アレンはいつもより長く入浴をした。





これまでも何度か二人が同じ任務に就くことはあった。
その任務の帰り、普段人混みを嫌う神田が、決まって華やかな街に消えていったのをアレンも目撃していた。だから、昨夜の事で確信してしまった。神田が昂ったカラダを、人を抱くことで鎮めていることを…
その相手に自分を選んでくれたことが嬉しいような、神田に抱かれたのは自分だけじゃないという悲しみのような、複雑な感情がアレンの中で渦巻いた。





そうして、この日から二人の関係が始まった。






 

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