Bath Happening

 


―カツーン、コツン、カツーン、コツン



1ヶ月ぶりに無事教団へ帰還した神田は、報告書と回収したイノセンスをコムイに渡し、先程任務が完了した。

ふと時計を見れば真夜中を示していた。



(どうりで静かなわけだ…。)



この時間では食堂も開いていないし、かといって帰ったばかりで鍛練をする気もしない、上に寝れる気もしない。
さて、これからどうしたものかと自室への道すがらぼんやり考えている時、ふと頭に思い浮かんだ白い“少年”。



(そういえば、あいつはどうしてんだろうな…)



何かと自分に突っ掛かってくる、なんとも気に食わない“少年”。



だが、その“少年”の初任務で一緒に行ったマテールでの任務の時のこと。
あの涙を見たときから、いや、それ以前…一目見たときから確かに惹かれていたのだ。



しかし、神田は自分の気持ちに気づいていないため、ふとしたときに思い出す“少年”にいつも

(なぜ頭に浮かぶんだっ!!)

と、イライラするばかりだった。





前に顔を合わせたのは自分が任務に出た1ヶ月前だから…

と、そこまで考えて神田は立ち止まる。



(………なんっで今、モヤシが頭に浮かんだっ!!)



無意識のうちにアレンを思い浮かべた神田はまだ、その気持ちに気づかずいつものようにイライラしていた。



神田は溜まった疲れとともに思い浮かんだその“少年”を流し去るために、まずは大浴場に行こうと考え、足を進め始めた。





それが全くの逆効果になるとも、衝撃の事実を知ることになるとも、このときの神田は知るよしもない―――





―・・・





部屋に戻って取ってきた着替えをカゴに置き、風呂の脱衣場では暑すぎる団服をさっさと脱いで、腰にタオルを巻いてから、高く縛っていた長い黒髪をおろして日本風の大浴場に入った。
そこには当然誰も居らず、湯の流れる音だけが響いていた。





一人でゆっくり落ち着いて風呂に入りたい神田は、いつも中に人がいるか確認してから入っていた。
…が、この日の神田は奥の露天風呂に誰かいるかを確認しなかった。
気を抜いていたからか、疲れていたからか…気配すら気づかなかった。





全身を洗い流し、室内の熱目の風呂に浸かる。
それからシャワーの冷水を頭からかぶりらゆっくりするため露天に向かった。

そして…当たり前のように誰もいないと思って、露天風呂に繋がる戸をなんの躊躇もなく開けると、今まさに風呂から出ようとしたであろうアレンが、浴槽に足をかけた状態で固まっていた。



「……」
「……」
「……なんだ、双子だったのか、アイツ…」
「っぅ、うわぁぁあぁぁぁっ!?
…っなんで!?こんな時間にお風呂入る人なんて居なかったのにっ」
「お前、モヤシそっくりだな」
「バッ神田!!僕はアレンですっ!!てゆか、いつまで見てるんですか!」
「いや、モヤシは男で胸があるわけねぇ」
「〜〜〜っ、いい加減、…目ぇ覚ませっ!!」



―ゴスッ



「〜〜〜ってぇ!!何すんだてめぇ!?」
「だからぁっ!僕がアレンだって言ってんでしょ!?…今まで隠してたんですよっ」
「……はぁ!?」



いつまでも不躾に見てくる神田を容赦なく左手で殴り、それだけ言って大浴場を走り出ていくアレン。

しばらく放心状態だった神田も、意識を戻し素早く体を流してから脱衣場に戻った。
中にはすでにしっかり服を着込んだアレンが部屋の隅で体育座りで背を向けていた。

それを見つけ腰にタオル一枚の格好で近寄り声をかければ、アレンは顔を真っ赤にして怒鳴った。



「おい」
「なん……〜〜〜っ、はっ、早く服着てくださいっ///近寄らないでっ//!」
「別にいいだろ。全裸じゃねぇんだ」
「っ僕は女ですよ!?頭おかしいんじゃないですかっ!」
「チッ、うるせぇ! つか、なんで男装、…男のフリなんてしてんだよ」
「……僕は、アクマを救済するためにエクソシストになったんです。そのためには前線に出なきゃ多くは救えない。もし、女だって言ったら、危険なとこにはいかせてくれないかもしれないっ…そんなことになったら、困るんですっ!…マナとも約束したのに…っ…!それから…しs」



「なんだバカ弟子、こいつにバレちまったのか」



「っ!?っし、師匠ぉ!?」
「なんで、あんたがっ…」
「風呂入りに来たんだよ。 …で、お前神田だったか?お前、アレンが好きなんだろう?」
「っ!?っな、なんでだっ!」
「…まぁいい。こいつに男装させてたのは俺だからな。バレちまったモンは仕方ねぇ。どうせ、男のフリなんてしてっから彼氏もいねぇんだろうし…お前、こいつを守ってやれよ」


「「はぁぁあぁ!?」」


「はっはっは! さらばだ、クソガキどもっ! 俺がここに来たことは黙っとけよー!」



フラッと現れたこの男。
…アレンの師であるクロスは何年も帰還していないようにみえて、実は、月1のペースで教団にある大浴場にのみ現れていたのだ。



それはさておき、アレンの男装はアレンが自らの約束のためにやっていたことでもあるが、クロスがアレンの身を案じて言い付けたものでもあった。



「な、なんで、師匠が。…てか、神田、バレた。裸、神田に…はだ、か…み……」
「あ、おいっ!モヤシ!」



―バタンっ



クロスが去った直後、アレンはいろいろ呟きながら途中で倒れた。

それはそれはきれいに。
真後ろにパタンと。

いまいち状況の理解ができていない神田はアレンの異変に気づくが間に合わず、急いで倒れたアレンを脱衣場にあったイスに寝かせ、自分の服を着込んでからアレンの部屋に運んだのだった。





―・・・翌朝



「(……っ……んー…朝…?)」



窓から差し込む光に眩しさを覚え目を覚ましたアレン。



「(…あー、昨日はお風呂に行って、出ようとしたら神田が入ってきて、双子だと思われて性別バレて師匠が来て…ん…?……性別バレて!?あ、神田にバレたんだっ、しかも、裸見られてっ///どーしよι…てか、倒れてからどうやってここまで…?)」



徐々に覚める頭で状況の整理をしながら、どうやってここに来たかを考え始める。

部屋を見渡すように首を右に向けると、



「んー、…て、神田っ!?」
「…っ、あ゛?」



神田がいた。

ベッド横にあったイスに腰掛け、窓枠に肘をつき額を手にのせ動かない神田を見つけた。
驚いたアレンの声に気づき神田も目を覚ました。



「あー、目ぇ覚めたのか。…体、大丈夫かよ。お前床に体強打してたが」
「あー、大丈夫です。…神田が、ここまで?」
「……まぁな。…お前、女だったんだな」
「…っ!!っま、まぁι」
「ふーん」
「……ι…言いふらしてくれて、いいですよっ」
「…いや、言わねぇ」
「…っ!? なぜ? 神田なら、すぐ言うのかと思いましたけど…」
「んなめんどくせぇことはしねぇよ。 元帥にお前のこと任せられたしな。…てのは、口実。 モヤシは俺“だけ”の女だ。だから男装は続けろよ」
「……は?ちょ、俺だけの女、とか、意味が…」



神田はアレンを運ぶ間、考えていた。

自分はアレンが好きなのかと。
なぜ、ここまでしているのかと。

そして気づいた。
ふとした時アレンを思い出し、何かと目につき追っていることに。
それから即行動派の神田は起きたばかりのアレンに…。



「好きだ」



告白をした。



「…はぁ!?ちょちょ、ちょ、待ってっ!」
「待たねぇ!お前自分の格好見て言いやがれ!俺が昨日どれだけ我慢したと思ってるっ!!」
「し、知らないですよっ!! てか、なにこれ!?なんでボタンがっ!」



神田がいたからとしっかり着込んだはずの寝間着の上がシャツ1枚になり、しかもボタンが辛うじて留まった状態。(←ひどくなるとマズイと思って神田が自分でやって自爆した結果)

その上、寝るときはサラシをはずしているせいで、胸が見えるか見えないかの危うい状態になっていた。


前日に逆上せて倒れた上に、翌朝から貞操の危機に広くもない部屋をおいかけっこ。

その日は諦めた神田にほっとするアレンだったが、その日からアレンへの神田の猛アピールが始まったのだった。





end




 

3/4









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -