隠れた想いは

 


『神田くーん!至急司令室までお願い!』



することもなく鍛練にでも行こうかと腰をあげた時、無線ゴーレムで司令室に来るよう言われ行ってみれば、そこにはリー兄妹とリーバーがいた。


そして、もう一人…



「あ、神田!今回は神田とみたいですね。よろしくお願いします」



なんて言いながらソファに座ってなんか食ってるモヤシ。

俺はこいつが嫌いだ。

モヤシが入団したばかりの頃に行ったマテールでの任務では


「誰かを救える破壊者になりたい」


と涙を流していた。
何に対しても甘すぎるこんなやつがエクソシストなのが、不思議でたまらない。
その上、会うたびいちいちつっかかってくる。パッツンだの蕎麦侍だのなんだのと…ムカついて仕方ない。


それなのに…なんでか放っておけない。





今回の任務は“人が砂になって消えている”と言う地域に行って調査することだった。
そんな現象は言わずもともわかる、AKUMAの仕業だ。

ファインダーによるとイノセンスは確認できなかった、とのことでAKUMAの討伐だけのはずだ。


出発早々もめる俺たちをファインダーのトマ―――――マテールの任務以来、俺たちが組む場合のファインダーはトマのみ―――――に宥められながら汽車で移動し、その日は宿で休むことになった。


しかし何の間違いか…



「すまないねぇ…ひとつしか部屋が空いてないんだよ」



部屋がひとつしか取れていなかったり…



「チッ、なんでモヤシなんk……おい、」
「どうしたんです?神田」
「ベッドがひとつしかねぇぞ」
「…えぇ!?神田と一緒になんか寝たくないんですけどっ…!」



ベッドがひとつしかなかったり…



「んー…バ神田〜」


―ドサ


「おい、てめえなn…寝言かよ」



アイツの寝相と寝言が究極に悪かったり…

そんなこんなで戦闘もない初日に俺は疲れ果てていた。


翌朝、いつものように朝食をドカ食いし、俺とは逆にぴんぴんしてるモヤシと、午後から念のためイノセンスの捜索に向かった。




―・・・




捜索を始めて1週間が過ぎた頃、モヤシは村の子どもたちと打ち解け、捜索から戻ると毎日日が暮れるまで遊んでやっていた。

それを少し離れたところから見ていた俺はふと思った。


こういうところがあいつの良いところなのか…?


…と。
同時になぜそんなことを思うのかわからず頭を抱えたが…。



額に手を当てため息を吐いた俺に、モヤシと遊んでいた少女が声をかけてきた。



「お兄ちゃん。頭痛いの?」
「あ゛ぁ?…チッ、違ぇよ。…あっち行って遊んでこい」
「そっかぁ!じゃあ、お兄ちゃんも一緒に遊ぼ!」
「は?あ、おい!?」



普段通りにいつもなら怖がられるような返事をしたにも関わらず、少女が俺の手を引いたことに驚いた。
次の瞬間には、子どもたちのいるところまで手を引かれていた。

その手は人間とは思えないくらい冷たかったのが印象に残った。



「お姉ちゃん!このお兄ちゃんも一緒に遊ぶの!」
「え?…ププッ、いいですよ!なにして遊びますか、神田」
「は!?俺は別に…」
「お兄ちゃん、遊ばないの…?」
「神田ったらひどいな〜遊ぶくらいいいじゃないですかぁ。ププッ」
「う、うるせぇ!」
「よかったね、一緒に遊んでくれるって!」
「本当?わぁい!じゃあ、なにしようかなぁ」



〜〜〜〜〜



それからもうどれくらい走り回っていたかわからなくなった頃、やっと子どもたちは帰って行った。



「ばいばーい!またね〜」
「はい、また明日」
「……てめぇ俺を巻き込みやがっ 「あの子、…AKUMA、なんです…」



げっそりしながら非難を浴びせようとしたのに、逆に面食らった俺にモヤシは続けて言う。



「あの子の両親はついこないだ亡くなったそうです。とても仲の良い優しい両親だったみたいですが…先日轢き逃げに遭ったって…。 内蔵された魂は母親。…この1週間被害はないですが、僕たちが来るまでは強盗や殺人を犯した罪人が次々に消えていたそうです」
「……あのガキがやってんのか?自分の両親が死んだはらいせに」
「……」
「…なぜ言わなかった?また被害者が出たらどうするんだ」
「…言ったら、キミはすぐに破壊したでしょう?…それじゃあ、ダメなんです!」
「なにがダメなんだ。てめぇみたいなアマちゃんがいるから世界はAKUMAだらけになんだよ!」



その日は喧嘩したまま宿に戻り、お互い早々に眠りについた。

…が、早すぎる就寝に寝ることもできずに考えていた。



「(なんでアイツは一人で全部済まそうとすんだ……チッ、考えるだけでイラつく)」



この夜、1週間ぶりにAKUMAによる殺人が行われた。





「今回の被害者は強盗殺人犯か」
「ええ。被害者(AKUMAの)は金を盗んだところを見つかって、持っていたナイフで主人を刺殺したそうです」
「……てめぇがノロまなことしてるからだ」
「はぁ!?僕にだって考えがあるんですよ!」



イノセンス同士で取っ組み合いになりかけたとき、どこからか昨日の少女が現れた。



「お姉ちゃんたちも、幸せを壊すの?」



言うと同時にlevel2にコンバートするAKUMA。
俺はすぐに戦闘体制に入ったがモヤシは発動すらしなかった。



「なにしてんだ、モヤシ!」



怒鳴っても完全無視を決め込み、AKUMAに話しかけ始めたモヤシ。



「あなたが今までの罪人殺害事件の犯人でしょう?」
「……」
「あなたは人の幸せを奪う殺人犯が許せなかったんでしょう?」
「―――ッ!」
「だからと言って殺人犯でも、人を殺すのはいけないことです」
「ウルサイっ!わたしハ、ハクシャクサマのタメニ、ヒトをコロスんだ!!」
「――っ!?モヤシっ!!」



突然攻撃してきたAKUMAにモヤシは避けるが間に合わず、脇腹を撃たれた。それでも顔を歪めながらAKUMAと内蔵された魂の叫びを聞き続けていた。


無意識にモヤシのもとへ走り寄ろうとしていたが、それを目で止められ真意を理解して頷いた。



「オマエたちをコロス!」
『……トメテ。コノコを、トメテ…!…モウ、このコガヒトをコロストコロは、ミタクない!!』



内蔵された母親の声を聞いたモヤシが俺に合図を出し、二人同時に駆け出した。



―ドスッ


―ガッ



俺の六幻とモヤシの退魔の剣がAKUMAを貫く。



「アリ、ガ、トウ。オネーチャンたちは、シアワセに…」
『コノコを、ハカイしてクレテ、アリガトウ』



AKUMAは言って姿を消した。



「哀れなAKUMAに魂の救済を…」



AKUMAの破壊と同時に倒れたモヤシを抱きとめ、俺は街の病院に走った。




―・・・




「………ん…」
「……」
「…んー、ここ…どこ……?」
「…」
「――った…あれ、カン、ダ?」
「…っ……ん、…モヤシ…?」
「あ、すいません。起こしちゃいました?」
「――っ…!」



微かに聞こえたモヤシの声に顔を上げれば、こちらを見るモヤシと目が合い、気づけば驚くモヤシもお構い無しに抱きしめていた。



「っ!カ、カンダッ!?」
「…よかった、お前が死ななくて」
「―――っ//!このくらい何ともないです! それより、…AKUMAのこと、ありがとうございました。僕の我が儘を聞いてくれて」
「……そうだな。チッ、すごい心配した。だから、まずはなぜあのAKUMAをすぐに破壊しなかったか話してくれ」
「……あの子は幸せに暮らしていた自分たちを引き裂いた運転手が憎かったみたいなんです。それでAKUMAになって復讐を… もともとこの地域は犯罪が多いそうで…自分と同じ様に苦しむ人を見ているうちに、気づいたら罪人ばかりを殺していた。と、女の子は言ってました。 きっと僕たちが刀や剣で取っ組み合うのを見て我慢ならなかったんでしょうね…」
「…そうか。 だが、あのAKUMAのおかげで他に伯爵に目をつけられた奴はいなかったってことか…。
それに…お前に言わなきゃいけないことも見つかった」

「…はは、奇遇ですね。僕もですよ」





「お前が好きだ」

「あなたが好きです」





同時に呟いた俺たちはきつく抱きしめ合い、触れ合うようなキスをした。


辛いことの多いこの時代の小さな幸せを取り零さないように。



数時間前まで好きだと気づけなかった自分のバカさに笑いたくなったが、今は目の前でふわりと微笑むこいつが消えてしまわないように、また抱きしめた。



今回ばかりはあのAKUMAに感謝をして。





end




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