少女の憂鬱

 


「はぁ〜…まだ帰ってこないのかなぁ」



任務もなく神田もいなくて暇な僕は談話室で読書をしている。
数少ない僕のお気に入りの本を読んでいても、ぼーっとしていて内容が頭に入ってこなかったけれど。



「神田、遅いわね」



リナリーにそう言われるまで、考えていたことが口に出ていたなんて気付かない程に上の空だった。



「えっあっ、そ、そうですねっ…」
「アレン君、神田が心配?神田が居なくて寂しい?」
「そーですね…どっちも、です」
「ふふっ、神田ったら神田のくせに愛されてるねー。 …大丈夫、神田は死なないわ」
「ええ…わかってても、姿を見るまでは心配なんです」
「それも、そーね」



そうリナリーと話をしていると、遠くから彼女の兄であり室長のコムイさんがマグカップらしきものを片手に、何か言いながら歩いてきた。



「アレンくん!神田くんから連絡あって、明日のお昼には帰って来れるって!怪我もほとんどないみたいだよ〜」
「っ!!ほんとですかっ!?わざわざありがとぅございます!」
「アレンくん、よかったねっ」
「はいっ!」



僕は明らかにさっきより明るい声を出して顔は綻ばせていた。





―・・・次の日の朝





「ごちそうさまでしたーっ」



神田の帰還が待ちきれなくて、連絡では昼過ぎと言われたにも関わらず、朝ごはんもそこそこに地下水路に向かって走った。



「アレン、今日はいつにも増して食べるの早かったさね」
「ふふっ、神田が今日帰ってくるからね。早く行って待ってるのよ、ほんとかわいいわね」





―・・・




「うぅ〜寒っ。やっぱり上着来てくるんだった…」



もうすぐ昼といってもこの季節に、しかも水辺となるとさすがに寒い。それでも「まだかな〜」なんて考えていると…



「モヤシーっ!!」



と珍しく声を張り上げて僕のことを呼んでる神田が少し先にいた。



「神田ぁ〜っ!」



階段から船着き場まで走りよれば、神田はゴンドラが船着き場に着いた途端船を飛び降りて、僕をきつく抱き締めてくれた。
乗っていたファインダーさんが揺れて落ちそうになってるけどごめんなさい、今は気にしていられない。



「神田っ、おかえりなさい。無事でよかったですっ」
「あぁ…それよりお前、いつからここにいたんだ?冷えきってるじゃねぇか」



言いながら肩を抱いて階段を登り始める神田。そんな行動と無事に帰って来たのが嬉しくて思い切り腰に抱きつけば「危ねぇだろうがっ」なんて言いながらもしっかり抱きとめてくれた。



「…早く神田に会いたかったんですよ」
「っ///…そうかっ。 ちっ、報告さっさと済ませて部屋行くぞ」
「はいっ!」



神田がいるだけで笑っていられる僕は現金かもしれないけれど、これが今の僕の一番の幸せ。





end



おまけ





食堂を出て廊下を歩いていたリナリーとラビ。

二人の前を昨日まで寂しさと心配で元気のなかった少女と、たった今任務から戻ったであろう青年が通り過ぎていった。

そして顔を見合わせ思う。



「「ふたりとも…





くっつきすぎよ(さ)っ!」」



二人からは昨日までのどんよりとした空気と、任務帰りの疲れた空気はなく、かわりにまわりをどんよりと疲れさせるほどの甘い空気を出していたのだった。





END

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