徒花の願い

 
原作沿いだけどいろいろ捏造。
アレンくん独白で神田の命の残量について考えてセンチメンタル。
リンクはなんだかんだでただの監査官じゃなくて、アレンくんのよき理解者。





















こんなこと、本人に言ったら本気で殴り飛ばされてしまうだろうけれど…――



最近の神田は以前より確実に、衰弱してきていると思う。


以前なら戦闘中に治っていたケガも今では帰還の途で完治する。

それから、しっかり睡眠を摂るようになった。これは良いことのように見えて、神田からすれば体力が落ちたと言うこと。今までは心配になるくらい寝てくれなかったのに。
ゲートが使えるようになってから、移動時間は格段に縮小されたけれど、僕の知らない地域への移動手段は未だ汽車や馬車。その間いつも神田は眠るようになった。

帰還後の談話室、僕の隣で眠ることも多々ある。
今もそうだ。帰還したら部屋に来いと言うから来たけれど、当の神田は目を覚まさない。



「――もやし」
「…なんです?」
「……もどったのか」
「えぇ、ついさっき。まだ、寝ててください」
「……ぁあ。 おきたら、めし」
「ふふ、はぁい。 おやすみなさい」



人が居ても起きないのも、眠れるのも、僕らが出会った頃では考えられないことだった。神田は気配に人一倍敏感だから。
だから、安心したように眠ってくれるのは嬉しいことだけれど……

神田は気づいてる?―――扉のすぐ外には、リンクが居るのを。

リンクの気配も気にならないほど彼に慣れたのか、ただ単に“気づけなかった”のか。

部屋着の緩い首もと、神田の綺麗な鎖骨のあたりに、ポタリポタリと涙の水溜まりができる。
隠しきれない胸のアザ。これが意味するもの。



『……ウォーカー、私は少し外しますので、夕食の時、食堂で』



あぁ、リンクにはバレてしまった。あの監査官は、融通の利かない堅物に見えて実は優しい。
また、リンクに気を使わせてしまった。



「…ありがとう」



リンクの気配はすでに無いけれど。神田の静かな呼吸音のみが聞こえる以外は、無音に等しい部屋に、感謝の言葉が消えた。




僕の怖いもの。それは、神田の死。

伯爵もAKUMAもなんてことない。14番目だってどうでもいい。エクソシストにあるまじきことだけれど…。
リナリーの世界が教団なら、僕の世界は神田とその他に別れる。
伯爵が居なくなって世界が平和になっても、神田が居ないんじゃこの世界は僕にとってただの檻でしかない。



「――…殺ればいいだろ」
「っ、神田っ?」
「俺の死が怖いなら、お前が俺を殺ればいい」
「そんなっ、」
「ただし、…その時はお前も道連れだ。…地獄でデートってのも、なかなかオツじゃねぇか。なぁ?モヤシ」
「んなっ、僕は地獄なんか嫌ですっ」
「んなもん、俺もイヤだ。 ……泣くんじゃねーよ、弱モヤシ」
「アレンですっ、バ神田!」
「へーへー。おらっ、飯行くぞモヤシ」



あぁ、いつもの神田だ。
意地悪で口が悪くて、だけどかっこよくて優しい神田だ。

こうやってまた、確実に命を磨り減らしていく神田から目を背ける。近い未来に消える命を、信じたくないから。



食堂には約束通りにリンクが居て、任務帰りのラビとリナリーも居る。
冷やかしてくるラビを神田が殴り飛ばして、リンクは小言をもらしリナリーが笑う。
ここだけ切り取れば、まさか戦時中とは思わないだろう。



あぁ。



いつか、こんな優しい時間がずっと続く世界がくることを願うばかり―――





end


 

20/29







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