きっと幸せに

 


「……モヤシ…」
『神田?珍しいですね。神田が無線繋げるの』
「……ったまには、な」
『えー…それより神田。息切れひどいですよ?』
「…数が、多かったから、だろ」
『………へぇー。帰ってこなかったら、ブッ飛ばしますよ左手で。わかりました?』
「………っあぁ」
『よろしい』
「…モヤシ、……ァレ、ン…おまえが、すきだ―――」
『っ!カ、神田っ!?やっぱり君っ…!』



―ブツッ、ザザーっ



次あいつに会えるのはいつになるか。…いや、もう二度と会えないか。再生能力にもガタがきているうえに、この致死量を越えた出血だ。…わかっていて、無線を繋げたんだ。

結局約束は守ってやれなかった。一人にしないって言ったのに、結局は俺“も”守れない。…守ってやれない。


あー、なんで俺はいつも、こうなんだ―――










「お久しぶりです。ずっと来れなくてごめんね。やっと、やっとあの戦争も終わって、みんなが笑って暮らせるようになったよ。 …ずーっと愛してます」



花束を置き、石を撫でながらアレンが言った。娘のこと、友人のこと、終戦後のこと。話すことはたくさんあった。ここを訪れたのは戦後はじめてだったからだ。
すると、アレンを真似て横に座っていた少女がアレンに聞いた。



「ママーこれはだれのおはかー?」
「んー?…これはねぇ、ママのだぁーいすきな人のお墓。ここから僕たちを見守っててくれてるんですよ。」
「んー?だいすきー?」
「うん。大好きな人。」
「……パパ、?」



子どもと言うのは意外によく回りを見ている。アレンが言う“大好きな人”=“パパ”と結論を出したようだ。そのままアレンの少し後ろ、上を見上げるように顔を向けた幼い少女。



「…俺じゃねーよ」



苦笑しながら言いって少女を抱き上げたのは髪を一つに結った男だった。


神田ユウ、その人である。



「ふふ。あなたはまだお墓に入るのは早いですよねー?」



にっこり、と言う表現がぴったりな笑顔を張り付け言うアレン。なにも知らないものが見れば可憐と言う言葉が似合う、その笑顔の意図を正確に察し、背に汗が流れるのを感じながら再度頷いた。





神田はあの無線の後、気を失い荒野で倒れていたところをアレン本人に助けられている。

アレンは無線が切れた後、自分の任務地から折り返し本部に無線を繋げ神田の居場所を聞いた。自分の任務の事後処理をファインダーに任せ、汽車に飛び乗ったアレンは神田のもとに急ぎ、ゲートで帰還。その後神田が全快した暁には左手で鉄拳制裁が下った。



この墓に来るのは実は二回目だ。少女が生まれる前、戦争もまだ終わらない頃に一度、結婚の挨拶に来て以来だ。
そしてこの場に来るたび、神田は言われ続ける。“あなたはまだ早いでしょう”と。

そしてそのたび誓う。

マナとやら、俺はまだまだそっちに挨拶にいけないらしい。あんたの娘を泣かせることはもうしない。まだもう少し、待っていてくれ。



マナの墓ではスズランが撫でるようなやわらかい風に揺れた。



神田の左腕には眠った少女が抱かれ、右手はアレンと手を繋がれている。夕陽に三人の影がのびていく。



「…アレン。……お前が、好きだ。」
「―――っ、僕も、大好きですっ。」





END



◆◆◆◆◆



スズランの花言葉
純潔、きっと幸せに、幸運が戻ってくる

マナにはアレンくんから『幸運が戻ってくる』の意味を込めて。
神アレにはマナから『きっと幸せに』の意味を込めて。



 

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