時を越えた約束

 


交わした約束



初夏の風吹く



ゆかりの地






“生きてまたここで会おう”



それはある二人が戦争に出る直前に交わした約束。
それが叶えられることは、終いぞなかったが…。





今となっては、もうほとんど語られることのない戦争が18世紀にあった。その戦争が終わってから一週間後。いまだ帰らぬ仲間の帰還を待ち続ける少女―――アレンの元に、あるものが届けられた。


『YU KANDA』と判の押された箱だった。その中には、髪を結うための結紐と団服のロングコートが入っていた。ぼろぼろに破け、オイルやら血やらにまみれて重たい。



「アレン、くんっ」
「……あぁーあ…何しちゃってるんですかねあのパッツンは。こんなものだけ置いてっちゃって。ほんとにバカ…
…っ嘘、つく奴は嫌いだって、言ったくせにっ。―――くそっくそっくそぅっ。…あぁぁあぁぁぁっ、っ!」



アレンは自分が汚れるのも気にせず、コートを胸に抱いて泣いた。その慟哭に、アレンを抱き締めたリナリーもたくさんの棺が列べられた聖堂も、さらに深い悲しみに包まれた。


それ以来、神田のものは何一つ見つからず、神田を含め見つからなかった者たちは殉職したとされ、捜索は終了した。葬送の式典も行われ、慰霊の十字架と石碑が建てられた。
それでもアレンは、神田を見つけるまで諦めない、と言って一人で捜索を続けた。神田が守っていた部隊の拠点の周辺や、行ったかどうかも怪しいくらい離れたところまで。ゲートまで使ってあちこち探し回った。探して探して、もう止めようとリナリーに言われても、一年経っても二年経っても、アレンは探すのを止めなかった。

結局神田は見つからなかった。アレンも寄生型のせいかあっという間に衰弱し、終戦から五年後、教団で30年に満たない短い一生を終えた。一言、ささやくように呟いて。



『かんだに、あいたい』





―・・・20〇〇年





最近よく同じ夢を見る。
白っぽい髪の人がツインテールの女の子に抱き締められながら泣いているもの。黒髪を一つにまとめた人が、何かを言いながら光に圧されて消えていくもの。
その夢のあとはいつも飛び起きるんだ。顔は涙に濡れて、体は汗が引いていく時のように冷えている。
涙を拭ってからボーッと夢の内容について考えていれば、お世話になってる考古学の師匠に怒鳴られて、慌ててご飯を食べに階下へ降りていく。毎度毎度懲りないな、と言われる頃には、夢のことは思考の彼方にあるのが常だった。





ロンドンから遠く離れた地。
気がつけば僕は、いつの間にかそこにいた。
確か、僕は古代の地下都市の発掘に師匠に着いて行って、今は家に帰る途中だったはずだ。師匠は街に繰り出したから、僕一人で。
……久しぶりに迷子発動かもしれない。…とりあえず、現在地はどこなのか、それが問題だ。

確認のために周りを見渡してみると、霧がかかって霞んだ先には、雨風にさらされて読みずらくなった文字の書かれた大きな石碑と十字架があった。
確かここは大きな修道院があったところだ。19世紀に入って老朽化から取り壊してしまったらしいけれど。
でも、始めて来たのに懐かしいような、忘れちゃいけないような…そんなところだ。



『――てまた―――会―う』



吸い寄せられるようにそれに近寄って、そっと石碑の文字を辿るように撫でると同時に、激しい頭痛とはっきりしない誰かの会話が聞こえた。
白髪の人と長い黒髪の知らない人。夢の中の人と同じ人たちだ。



「―――…おい」



かけられた声に振り向いた先に居たのは、夢と寸分違わぬ顔の人。声からして男だけど、喋らなければ女性に見える。こちらではあまり見掛けない東洋の顔立ち。

そこまで確認すると、ふ、と顔が緩んだ。
幸せそうな、あったかそうな、そんな雰囲気の中で二人が微笑み合ってる。あの悲しい夢を見た夜は、そんな夢を見た。
その時と同じ気持ち、同じ顔。



あぁ、これが、僕の運命。
世界はいつの世も廻ってる。



「「      」」





初夏の涼しい風が吹く



ずっと昔に交わした約束は



永遠の恋の始まりと共に



今 果たされる―――





END


 

17/29







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -