Believe in tomorrow

 


『教団がどうなっていっても
僕らは僕らだ。

僕らが変わらず信じて進めば
大丈夫ですよ。

未来できっと笑っていられる』










「リナリー、コムイさーん!お久しぶりですー!」

「アレンくん!神田もレンくんも久しぶりね♪」

「やぁやぁ、久しぶり〜っ。よく来てくれたね。 レンくんも元気そうだ♪」

「もー元気すぎるくらいですよ。ほら、リナリーお姉ちゃんですよー。 あ、バクさんも来てたんですねっ。お久しぶりです」

「おぉ、ウォーカーじゃないか!元気そうで何よりだっ。 神田も、久しぶりだな」

「あぁ」



世界が伯爵の脅威から救われて数年。もうあの恐ろしい姿の兵器を見ることはなくなった。
世に知れることはないが、陰ながら世界救済を成し遂げた戦士達がいた。


十にも満たない幼い子どもから大人まで。エクソシストと呼ばれる者達だ。



そのエクソシストを増やすための教団の負の遺産。



“第二使徒計画”



成功したのはたった二人。
うち生き残ったのは一人。





神田。
お前は今、幸せか――…?





―・・・





昔馴染みを集めて教団でパーティーを開くから、と招待状が来た二人は、息子を連れて教団に帰省した。

集める、と言っても居ないのはエクソシストくらいで、他の団員たちはだいたい変わらず教団に残っている。
いつものようにコムイが気まぐれで同窓会をしようと言い出したんだそうだ。





そして久しぶりの再会に立ち話じゃアレだからと、食堂に移動して思い出話に花を咲かせたのが昨日。
今日、アレンとリナリーは翌日のパーティーの“買い出し”と称したデートで街に繰り出している。
アレンも久しぶりに主婦や母の顔を忘れて、リナリーと年相応の女の子に戻り、ショッピングやガールズトークに花を咲かせているだろう。


その間息子のレンを預かると申し出た神田は、教団で留守番をしているわけだ。
暇だからと息子を抱っこして、当時と指して変わらない内装の教団内を徘徊してみれば、途中、今では別機関の所属となった、元教団科学班員などに声をかけられた。


たまに足を止めながら進み、談話室の前を通り過ぎたとき…



「神田、ちょっと話さないか?」



声をかけられて中に入れば、こちらに顔を向けてソファーに座っているバクがいた。



「……キミに会うのは、終戦記念パーティーのとき以来、か…?」

「…そうだな」

「ウォーカーと結婚したとは聞いていたが…子もできたのか」

「あぁ。もう2歳になる」

「そうか。…神田が父親か」

「……なんか話があんだろ?」

「うっι」

「はっ、わかりやすいやつ」

「うぐっ…ι ま、まぁ、いい…





……キミは、今、…幸せか?」





問われた神田はもう何年前かも忘れた、神田の唯一の同志を母胎とした人体の半アクマ化計画、“第三使徒計画”が行われた時のことを思い浮かべながら言った。





「……幸せなんじゃないか? くだらねー戦争も終わって、アレンと結婚して、こいつが生まれて。 幸せだろ。


俺はもう“YU”じゃねぇ。
『神田ユウ』だ。
神田ユウになった時からセカンドなんてどうでもいい。アルマのことだって終わったことだ。…もう、掘り返すんじゃねぇよ。

見るならこの先の、…“未来”をみろ。 千年伯爵なんてバカげたやつが、また復活してこねーようにな」





「…ふっ。そうか、…幸せか。…爺っさまに見せてやりたかったな、その顔を…」



神田の膝の上で長い髪でじゃれる息子を見ながら、薄く笑みを湛えながら答えた神田にバクが言った。
本人は笑っていたことなんて無自覚だったようで、ピタッと動きを止める。



「はははっ、聞かんでもわかりきったことだったな。…それくらい、幸せそうな顔をしてるぞ」

「……、…ふ、そうかい。…話は終わったんだろ?失礼するぜ」



言うなりさっさと立ち上がって背を向けた神田に、バクはまた声をかけた。



「神田! ありがとうっ」



立ち上がって、歩き続ける背に叫ぶように。
「ありがとう」の真意は二人だけが知るところ。


左手をズボンのポケットにかけたまま歩く神田に、片腕で抱かれていたレンが、バクに小さく手を振った。
それに応えてまた椅子に腰を落ち着ける。



「爺っさま。神田はもう囚われてなんかないよ。もう、…大丈夫さ」





過ぎた過去をみるより、

まだ見ぬ未来を。


自分の信じた道を進めば、

きっといつか道は拓けるから。





翌日のパーティーで、神田がアレンとレンの家族三人でいるところを見たバクは、三人の微笑ましい笑顔に自分も笑みを深めて人混みに紛れていった。





END





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