いつものように

 


あなたはどこへ行ったのですか?


僕のことは見えていますか?





―いつものように―





「神田、いってらっしゃい」

「あぁ」



その日も神田は任務だった。
いつものように六幻を背負い、
いつものように長い黒髪を高い位置で一つに結い、
いつものように口数少なく出て行く。
そして、いつものように六幻でAKUMAを斬っていく。

愛おしい白髪の少女を想いながら。

数が多かったAKUMAをやっと殲滅した頃、少し離れたところに人間らしき姿が目にはいった。



「(人間…?いや、こんなとこにいるはずねぇな)」



少し考えたあと前を見ると、そこに姿はなく神田の真後ろに移動していた。
かと、思えば心臓を鷲掴んできた。



「(なん、だっ!?)」

「おい、兄ちゃん。俺は人じゃねぇぞ。あんたらの敵“ノア”だ。俺はティキ・ミック、兄ちゃんはエクソシストだよな?」

「ノア、だと」

「あぁ。千年伯爵の仲間だ。で、兄ちゃんは?」

「……ふん、敵に名を名乗るなんざどこぞの白髪モヤシじゃあるまいし…死に行く者に名乗る名なんざ、あいにくと持ち合わせちゃいねぇ」

「…ま、いっか。じゃあ少年、いや…少女か。アレン・ウォーカーはどこにいる?」

「…!?…はっ、ノアなんかに言えるかよ。…あいつはやらねぇ」

「…そゆこと…。先越されちゃったな。まぁいいけど。言わないならイノセンス破壊してこの心臓潰して殺すまでだ。言えば、今回は見逃してやる。最後に問う、ウォーカーはどこだ?」



ティキはなにかを見透かしたように呟き、静かに神田に問うた。



「チッ、しつけーな。あいつの居場所は教えねぇし、殺られんのはテメェだっ!!」



しかし神田は言い切ると心臓を掴んでいる方のティキの手を切り落としてしまおうと刀を振り上げた。が、ティキは間一髪で避け神田との間をとる。



「はっ、よく避けたな。次は斬るぜ」



その言葉を合図にふたりは同時に駆け出した。
人里離れた日暮れの薄暗い森に、ぶつかり合い、殴り合う音だけが響いていた。





―・・・数時間後





ティキは血塗れで地に伏し、神田はそのティキを背にし、よたよたと覚束ない足取りで歩き始めた。

しかし、数歩歩いたところで木に凭れるように座り込むと、空にある夕日に染まる雲を力無く見上げ呟く。



「…チッ、結局どっちも、死ぬか…モヤシ…アレン、すまねぇ、な…」



言い切ると静かに目を閉じた。





―・・・





「…なんだろう(嫌な感じがする)」



妙な胸騒ぎにアレンが部屋に立ち尽くしていると



「「アーレーンー(くーん)!!ご飯に行くさー(きましょう)!!」」



扉の外から男女の明るい声が聞こえ、はっと現実に戻ってくる。



「っ!?…あ、は はーい。今行きまーすっ!」



アレンは嫌な感じを振り切るように扉の方に駆けていった。





―・・・





夕食後、ラビと談笑しながら自室に向かって歩いていると、向こうからリーバーが俯き気味で歩いてくるのが見えた。
リナリーはコムイに呼ばれ先に戻ったのでこの場にはいない。



「リーバー元気ないみたいだけどどうしたんさ?」

「? あぁ、ちょっとね。…ちょうどよかった。アレン、一緒に司令室まで来てくれ。室長が探してたんだよ」

「じゃあ、俺は先に部屋に戻ってるさ〜」

「……わかりました」



いつもと違いうるさくない司令室に少し居心地が悪い。
そこにはコムイとリーバー、食堂で別れたリナリーがいた。



「…アレンくん、落ち着いて聞いてね」

「…っ!?…はい…」



言っておきながらなにも話さないコムイにアレンは



「…どうしたんですか?そんなに神妙にして。コムイさんらしくないですよ」



わざと少し明るめに声を出す。
それは微かに震えていた。



「…」

「コムイ、さん?」

「……っ神田くんが、もう目を、覚まさないかもしれないっ…!」

「っ!?ぅ、うそだ!!」

「…嘘じゃない」

「ちがうっ!!…神田は、ユウは簡単には死なないんだっ!!」

「アレンくん、落ち着i 「うそだっ!!うそだ、うそだ、うそだ、うそだ!!ちがう、ちがう、ちがう、ちがうっ!!…っうわぁああぁぁぁあぁぁ」



アレンはヒステリックになりコムイの言葉を遮り神田の死を否定し続けた。
リナリーはアレンの悲痛の叫びを聞き涙を流している。そこに先程の笑顔は、ない。



「ユ、ユウは任務に行く時“いってくる”って言ったんですよ!?“いってきます”は“おかえりなさい”と“ただいま”を言うためにあるんですよ!?僕、まだユウに“おかえりなさい”って言ってないし“ただいま”って言われてないっ!!僕は信じませんっ」

「……神田くんは…もぅ寿命がギリギリだったんだっ、アレン君には黙っていた。すまない。 リナリー神田くんのところに連れて行ってあげて」

「……わかったわ」



リナリーは座り込み虚空を見つめるアレンの肩を抱き司令室から出て行った。







「ここに神田がいるわ」



集中治療室の前で立ち止まりリナリーが言った。
アレンは静かに部屋に入り、一人だけ寝かされているベッドに近づく。



「……ユウ…?」

「……」

「おかえりなさい。まだ息してるじゃないですか、まだ死なないですよね?」

「……」



意識を失っている神田が話せるはずもなくアレンはひとり話しかけ続ける。



「なんか言ってくださいよ。また僕を無視するくらい無愛想になったんですか?」



アレンはそこまで言って押し黙った。静かに神田の頬に触れた。そこに涙が落ち流れる。まるで、神田が泣いてるように見える。



「……うっ…ユウーーーー!!ああぁぁぁあぁぁっ…」





―・・・





翌朝いつの間に寝てしまったのか病室で目を覚ました。



「……っ!?か、神田!?」



アレンは驚き一気に頭が覚醒する。



「…どこ、いったん、ですか?」



昨日確かに寝ていたはずの神田の姿がそこになかったのだ。

しかも、神田のイノセンスであり愛刀の六幻と、団服の上着も残したままクロスのように忽然と姿を消した。

しかし、アレンはどこか安堵している。



「(神田は死んでいない!責任感の強いユウのことだし、いつか帰ってくるよね。そして…帰って来たらちゃんと言おう。)」



そう思ったのだ。





―・・・数年後



「(もう2年か…僕もあの時の神田と同じ歳になっちゃったな)」



アレンは束の間の休息で気分転換にバルコニーに出ている。



「…バ神田〜死んじゃったんですか〜?蕎麦でもお供えしましょうか、僕打てるようになったんですよ〜…はは…」

「……おい、くそモヤシ。今すぐ蕎麦打ってこい。そしたら、今のは無しにしてやる」

「…っ!?…っいやですよ!!」



そこには刀を肩に担ぎ、二年前より長くなった黒髪を二年前と同じ高さで結っている、逞しくなった青年と…二年前より少し大きく綺麗になった少女が抱き合っていた。




何気ない“いつも”は突然なくなる

あなたがいるのは“いつも”だけど

いつなくなるかはわからないから
“いつも”を少しずつ変えていこう





END





(ユウ、大好きです)


(あぁ、俺もだ)



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