梓弓

 


海外勤務をして3年。
やっと日本に帰ってこれた。


あいつは元気にしているだろうか。
伸ばすんだと言っていた短かった髪も、この3年で背中くらいまでは伸びただろうか。

早く会いたい。
早く抱き締めたい。
早く声を聞きたい。



いや、…あいつは俺のことなんかは待っていないだろうか。



3年ぶりのあいつのアパートは相変わらずボロ屋。部屋も変わっていなかった。

3年前のこの時期、俺はあいつに黙って就職した企業の研修として海外勤務を承諾し、向こうに渡った。
あいつがどうでもよかった訳じゃない。話せば、行きたくなくなる気がしたから話さなかった。

夢は叶えたいし、あいつも大事…欲張りな俺の我が儘だ。

……覚悟はしている。
3年もほったらかしの男より、良い男を見つけてるかもしれない。
もし、そうなら…これ以上の我が儘は言わない。



―ピンポーン



『はーいっ』



懐かしい。
やわらかい、涼しいあいつの声だ。



「…俺だ。神田だ。ここを、開けてくれないか」
『っ!(―ガタッ、たたっ。……かた…)』



郵便受けから器用に出された紙切れ。



―3年、待ちました。待ちくたびれました。今日、彼が家に来ます。―



一瞬、紙切れを握り締める。
3年はやはり待たせ過ぎた。
裏にメモを書く。



―お前を愛してた。俺がお前を愛したように、お前もその男を愛してやれ。じゃあな。―



内心ではこんなこと思ってないが…付き合ってるわけでもない俺が、キレてすがるのは違う。
紙切れを郵便受けに入れてから、あいつの部屋の前を後にした。
これ以上は醜い心のうちを曝すだけだ。

曲がればアパートが見えなくなる角。
そこを曲がったとき、背中に衝撃をくらって前につんのめる。



「ってぇな!んだよっ!?」
「あんな嘘だらけの気持ち悪いメモ残して立ち去るなんて、この3年で事故にでも遭ったんですか!? 僕はキミが僕を愛してても、そうじゃなくてもずっとキミを想ってたのに! …っ!?」
「言ったな、お前。今の言葉、違うなよ?」
「っさ、3年放置のキミとは違いますからっ」
「…チッ。悪かったな、ほったらかして。」
「もういいんです。今こうしてるから。」



抱き締めていた手に、さらに力を籠める。
力一杯抱き締めてから抱き上げた。



「さて、3年越しの愛でも確かめに行くかっ。」
「はっ!?ちょ、待って!心の準備がっ…」
「んなもんいらねぇ。なんも考えれなくしてやるよ。」
「遠慮しときます!」
「お前を3年待たせた詫びと俺に飛び蹴りしてきた仕置きだ。覚悟しとけよ?」
「それでチャラでいいじゃないですかっ!」
「やだ。気がすまない」
「この、バカヤローがぁ!」





翌日の朝、あまりの寒さに起きたら外に服ごと閉め出されていたのは、また別の機会に…――





end


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