short | ナノ
日本の生まれである彼女は、きっかけは聞いてないが物心ついた頃にイタリアに移住してきたという。母は早くに他界し、父と二人で貧しいながらここに店を開いた。市街地から少し離れた、目立たない所に父から受け継いだバルをやりくりして生活している。その父も、母親のところへ旅立った。

一人で立ち寄るような小さな店だ。昼は仕込みのため店に、夜は営業のため店に……、この女の私生活はほぼ店の中で循環されている。
同じような店はいくらでもあるが、他を当たるくらいならここを選んだ。それには理由がある。下らなくも、単純なものだが。

まだオープン前の店には、カウンター越しに今日もオープンに向けて準備を進めているなまえ。プロシュートはカウンター席の一番端に座り、昼間からのウィスキーだ。その目線の先には彼女の後ろ姿。静かに見つめている。時どき目線が合うと、なまえは微笑んだ。それに小さく笑みを返す。
ペッシと同じくらいの年のくせに、落ち着きがあって風貌は大人びていて、体つきも大人の女だ。そして、スタンド使いである。今、店内に流れている曲はそのスタンドによるもの。店の名でもあるなまえのスタンドは『ミサ・ザ・リード』といって、対象の気持ちを読み取ってそれを音楽として放出することができる能力を持つ。つまり、今の曲はプロシュートの気持ちが音楽に変換されたものが流れているのだ。それは店のパフォーマンスとして客を楽しませている。

「プロシュートさん、この曲、心地よい気持ちがとても伝わってきます」

ふんわりと笑顔を見せるなまえ。
そりゃ、心地い曲も流れるはずだ。

「この店は居心地がいいからな。俺のためにあるようなもんだろ?」
「ふふ、そうですね」

これ以上の言葉で表現するには難しい部分があった。なんせ、ミサは人の気持ちを読み取るプロフェッショナルだ。そしてそれを曲として表に出してしまうわけなのだから。

「今までプロシュートさんの色んな気持ちを聴いてきたけど、どれも心安らぐものばかりなんです。なんとなく、私に聴いてほしいって訴えてるような、そんな感じの時もあるんですよ」
「そ、そうか。……まぁ、はずれでもねぇがな」

これはヤべぇ。いずれバレるに違いねぇ。つっても、なまえにゃ俺たちみてぇなのと関わらせたくねぇ。ある程度の他人でなきゃダメなんだ。……他人でなきゃなんねぇってのに、俺は。

「……なまえ、耳栓でもしてもらいてぇぐらいだぜ」
「え?」

ゆっくりと立ち上がり、カウンター越しに彼女の目の前に立つ。ミサの曲が切り換えを始める。
させねぇ、俺が先だ、ミサ様よぉ。ほんの一瞬ぐらい夢見させてくれよ?
なまえの頬に両の手で優しく触れ、近くに寄せる。その唇までおよそ数センチ。彼女の頬がほんのり色づく。憎いほど、可愛らしい。

「二度と言わねぇが、……愛してるぜ、なまえ」

唇が重なりあったときの、まったく甘ったりぃ曲ときたら。
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