short | ナノ
「噛み付くぞ、コラ」

小動物みたいなヤツが隣にちょこんと座していて、食い物で頬をぱんぱんに膨らませながら俺の一言に驚いた様子で背筋をピンと伸ばした。真ん丸い瞳が俺を見上げるが、未だに頬袋……? を膨らませているため何も言えない。ただ、瞳でなにかを訴えているような気がする。

「お前、口の周りにパンのカスつけすぎだろ」

手を伸ばして親指でグイと拭ってやる。余計な力が入っていたのか、なまえは拭ってやった所を痛そうにさすった。細い目が向けらる。
コイツはいちいち、反応が面白い。

「なんだよ、その目は? 取ってやったんだから感謝するとこだろうよ。てかいつまで食ってんだよ、お前はハムスターか」

くつくつと笑うと、なまえはかすかに頬を赤らめて俺の肩をはたいた。欲しい反応を毎回くれるから、コイツをいじるのが日課になった。
やっとパンを飲み込んだようだ。足元にあったペットボトルのお茶を飲み干す。

「っぷはぁ。〜〜んもう、大ちゃんてば! 食べてる途中で笑わせないでよ! 危なかったんだから!」

二度目の肩はたきを食らわされた。
ぷっくりと両頬を膨らませながら怒る。だが、申し訳ない、どうしても俺からはそれが怒っていると捉えることができない。なぜなら、小動物だからだ。
それよりも俺は笑いを堪えることで精一杯だった。

「むっ、なに笑ってるのよぉ。……ふにッ?!」

もち、という効果音がお似合いだ。
コイツの頬が餅のように柔らかくて肉厚なのは知っていた。だから、食い終わるまでこうしたいのを我慢していたのだ。我慢できた俺、よくやった。
寄せたり、引っ張ったり、つまんだり。

「ふぇ〜ん、いはいほぉ〜っ」
「あ? 何語だよ。そうだ、知ってるか? 頬と尻の柔らかさは比例するらしいぜ」
「へ?! ほ、ほうなの?」
「ほうなの。尻みてぇだなマジで」

もちろん、そんな話は嘘である。
なまえは表情を硬直させて、顔を真っ赤に染め上げていた。目を色々なところへ泳がせて黙り込む。そんな様子に俺は満足に笑みする。
こういう反応が俺の活力源。それを聞けばきっとコイツは怒り出すだろう、いつもみたいに頬を膨らませながら。
なまえの顔を持ち上げる。
互いの呼吸が感じられるほど側に顔を接近させ、

「めちゃくちゃにすんぞ、コラ」

その唇に、噛みついた。
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