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久々の休暇がやってきた。
休暇になると、同胞たちは実家に帰るか恋人の所へ戻るか、そうでない人は皆で集まって酒場を占領してわいのわいのやるのだ。それは、軍人たちが肩の力を抜くことのできる唯一の時間。このひと時を無駄にする人はいない。隊長だって今頃は自宅に帰って最愛の奥さんとまだ小さい娘さんと一緒に過ごしているだろう。隊長は時々、勤務中でも懐から娘の写真覗かせて自慢をしてきた。家族想いの、いい人だ。

そんななまえには、帰る所も身内も存在しなかった。

伸ばされた手を、心臓を早鐘させながら見つめた。その手をなかなか取れないなまえは、至極の緊張のせいで顔を赤に染めている。

「どうした?」

反応のないなまえにバージルは小首を傾げ眉をひそめた。

「あ、えっと、えっと……」

ずっと足元を見つめているなまえの顔を彼はそっと覗く。

「腹でも減ったか?」
「お、お腹は……はい、空いてます。じゃなくてっ! えっと、この手を掴めば、いいのでしょうか?」

最後のほうは、どれほど顔が近くにあってももごもごとしか聞き取れないような声だった。なまえは恋愛には奥手だった。
すると、バージルの手が突然なまえの手首を掴んだ。心臓が跳ねる。ぐりん、と顔を上げて彼を見上げた。

「とりあえず、なにか食うか」

バージルは薄い微笑みを浮かべて言うと、手首を握ったまま歩き出した。

「は、はい」

どうか、このまま後ろを振り向かないでほしい。きっと顔が無残にも炎をまとっているだろうから。


戦がなくなればいい。
一瞬でもそう思ってしまった自分は、情けないだろうか。大切な人がそれによってこの世からいなくなってしまった。決して忘れてはいけない。
でも、軍人という肩書きを忘れることのできるつかの間の一休みだった。
そしてそこで芽生えた蕾は非常に大きかった。次はその蕾を枯らさぬよう、花を咲かさなければ。




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