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「あ、なまえさん! おはようございます」

朝、席に着こうと鞄を机上に置くと左後ろから挨拶が飛んできた。挨拶を返そうと振り向くと、黒子はなぜか席を立っていた。さも勢いよく立ち上がりました、とでも言っているような雰囲気だった。
それになんとなく気圧される。

「お、おはよ。どうかした?」
「なまえさんに聞きたいことがあります」
「え? あ、なに?」

珍しく黒子が感情をあらわにしている……?
どこかそわそわとして落ち着きがない。いつもと少しばかり違う彼の真剣な眼差しと声音に気後れしそうだ。

「この間、火神くんから聞いたんですけど――」

すると、そこで。

「俺がなんだって?」

黒子の言葉は、ちょうど登校してきた火神の声によって遮られた。
ナイスタイミング。
私は優先して火神に挨拶する。

「か、火神、おはよう」
「うす」

ドカっと椅子に腰掛けた火神を見て私も紛れて着席した。
ちらりと黒子を見上げる。
会話を途中で遮られたためか、黒子の口は半開きのままだ。
あくびを大きくかましていた火神も黒子の異変に気づいたようで、

「あ? なに突っ立てんだおまえ?」
「……いえ。ちょっとトイレにいってきます」

低めの声音でそれだけ言って、黒子は俯いたまま教室を出た。

「って、もう本鈴じゃん」
「うん、そだね」

私は小さくため息を吐いて背もたれに体重をかけた。

「なんだよなまえ、黒子となんかあったのか?」
「わかんない。でも、さっき私に言いたいことがある、て。火神から聞いたとかなんとか言ってたけど。……なんか黒子に言ったの?」

あの真剣な様子だともしかしたら大切な内容だったのかもしれない、とも思ってしまって、黒子に対するさっきの私の態度はあんまりだったかもしれない。
そんなことを、ほんの少し考えた。
だが、それもつかの間。
私は彼のことが苦手なのだ。だから、あんな態度を取ってしまうのだ。
なんだか自分が悪いことをしているみたいで思わず頭を抱えてしまった。

「あ。あ〜、わかった、なるほどな」
「なにがなるほど、よ」
「この間、黒子に言ってやったんだ」
「なにを?」
「お前が黒子のこと苦手だ、ってこと。だから最近すねてたわけだアイツ」

笑い出す火神。

「そ、そうなんだ。別に言わなくてもいいことじゃないのそれ」
「向こうはおまえのこと好いてるみてーだからな。嫌いなヤツにちょっかい出されんのウザってえだろ? だったらはっきし言ってやったほうがいいに決まってら」

彼はふいとそっぽを向いて淡々とした口調で言った。

「別に嫌いなわけじゃないよ……。ただ、ちょっと苦手ってだけ」

足元に視線を落としていると、ぼす、と頭に火神の手が乗った。

「べっつにいいんじゃね〜? 事実なんだしよ。おまえが気ィ落とすこたないだろが」

あれ?
どうしてこんなにしんみりとした空気なのだろう?

そして、黒子は一時限目が始まっても戻ってくることはなかった。
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