貴方と私の家族の話・後



ねえ隊長
あなたのそばに存在するために、一体いくつまでの罪なら許されるのかな。

あなたは自分を冷徹の殺人鬼のように扱う時があるけれど、そんな罪なら1人で背負わなくてもいい。

私たちは同じ、私たちはみんな共犯者。


だけどね。


ミツバさんと穏やかに微笑み合う隊長を見ていたら、よかった、この人もただの人間なんだ、って
普通よりもずっとずっと優しい時間を知っている、ただの優しい人間なんだって

私、そんなふうに思えて嬉しかったんだよ。










「それじゃあ、よろしくお願いしやす。」

「2人とも、元気でね」

最後の引き取り先に頭を下げる隊長の隣で、私はちよちゃんたちの頭を撫でて微笑んだ。

これで、お別れだ。
2人はしばらく名残惜しそうにこちらを伺っていたけど、やがて手を振り笑顔になった。

私も手を振った。
早くも帰り路を引き返す隊長も、気づくとその手を不器用に振っていた。

お別れだ。








「なんかさみしいね、ちびちゃんたちといたのはちょっとの期間なのに…」

日が傾きかけた道を歩く。

「なあに子供萌えな女子アピールしてんだ、ガキがいなくて寂しいなんて柄かよ」

隊長はなんだか意地悪なことを言う。

アピールなんかじゃなく寂しいのは本当なのだが、さして特別子供が好きなわけではないのもまた事実だ。


「うーん、たぶんね、ちょっとの間一緒にいたことで愛着が湧いたんだと、そう加恋は思います」

顎に手を当ててそう言うと、「だれもそんなまじめな解析は求めてねーんだよ…」とうっとおしそうなため息をつかれた。

「どうしたの、疲れたの?」
「あぁつかれたィ、バカ女と四六時中一緒なもんで…彼女でもねーのにな?」

隊長はイジワルな笑みで口端を釣り上げて、な?と私の方を見た。

「……」
「なんだよ、言い返さねーのか?」

その時わたしは、自分でもびっくりするほどちょっとニンゲン的だった。

このつめたーい人に嘘泣きでもしてみようかな、なんて
そんな気持ちになったのだ。

でもそれはやっぱり、主人として隊長を敬ってるわたしには到底できない芸当だった。

こんなとこで可愛く涙なんてぜったい出せないくせに、ウソで泣いて気を引こうなんて、ズルいよね…。

「やだー、彼女に戻してよう」

結局わたしは、いつものように情けない声で隊長の腕に巻き付いた。

隊長は鼻を鳴らしてその腕を勢いよく振り払う。

「やーだよ。まだ今夜もう一泊姉上のとこにしてくんだから」

「ねえ隊長、わたし考えたんだけど
ミツバさんの前で付き合ってないことにすればいいわけで、ほんとのほんとにコイビト解消する必要はないじゃない?」


ここぞとばかりに、疑問を口にする。指を立てて言った私を、隊長は「ほう」という顔で見た。

「だから、戻していいと思うのね。
ミツバさんの前では、その…何もないフリをするから」

ダメ?

隊長を見上げた。

隊長は私の目をじっと見つめながら何かを考えてたように見えたけど、次の時ふっと視線を外して私より前を歩き出す。

「好きにしろィ」

ぶっきらぼうにそう、言葉を残しながら。



顔がぱっと明るくなるのがわかる。
今のは正真正銘、オッケーの返事だ。

ふふっと喜びの笑みをこぼして、私はるんるんで隊長の周りを駆け回る。

「いやっほーい」
「はー短い解約期間だったぜ」

うざったそうにしていたけど、隊長のその顔は嫌がってるカオじゃないって
わたし、知ってるんだからね。



歩く細道が見覚えのある風景になり、角に差し掛かったところでわたしは昨日の景色を思い出した。
そうか、隊長の家の前だ。

「うふふっ、今日はチビちゃんズもいないし正真正銘、隊長のご実家にお泊まりだぁ〜」

こんなにハートマークを飛ばしてちらちらと顔を伺っても、隣の男の人はなんてことないクールな表情を保っている。

でもでも、こんなことでへこたれる私ではない。

絶対ぜったい、今夜優秀な右腕として沖田家に認めてもらって、隊長とすてきな夜を過ごすのだ!

「ふぁいと、おー!」
「もー頼むから黙ってといてくれよな」

無表情に呟く隊長の横で気合を入れながら、家の前まで来た私は深呼吸をした。


「姉上、戻りやした」
「こんばんはー!今日もお世話になりますっ」

がらがらと引き戸を開けながらいつもよりわずかに高いトーンでハッキリした声を出す隊長に続けて、私も元気に挨拶をした。

すぐに柔らかい声がして、ミツバさんが廊下に顔を出す。

「お帰りなさい総ちゃん、加恋ちゃん」

目があったミツバさんの、同じ色の瞳を覗いて私は笑顔だけで返事した。

back 1/4 next


back