独占の炎



新八は三人を見ていた。

線香からでる煙を撒き散らす沖田さんに、あーこの匂い私好きアル〜と鼻をひくひくさせる神楽ちゃん。


で、沖田さんの隣にいる加恋さん。さっきまで沖田さんにひっついて、あんなに嬉しそうな笑顔を見せていたのに。
スカートをまくられても何にも様子を買えなかったのに。


今はちょっとだけ、元気がないようにみえた。

火をつけようと苦心していたときのままの体制で、ぼんやり座っている。
思わず話しかけようとしたとき、その瞳と目があった。

目があって、一瞬詰まったのち。
意を決して、おずおずと口を開いた。

「あのう、加恋さん大丈夫です?なんか具合悪そうじゃないですか?」

「んーん…」

大丈夫、とやんわり微笑んで返されると何にも言えなくなった。



少しわかってきたことだけど、この人の底しれなさは銀さんに似ている。

新八は思った。

決してほんとの気持ちをこちらにはむけないだろうと、なぜかそう思わせる雰囲気がふたりにはあるのだ。


けど実際問題、悪そうなもんは悪そうなのだ、よくよく顔を見ると紙のように真っ白なのである。


「ちょっと、沖田さん」


神楽ちゃんと話し込んでいた沖田さんの肩を指で2度たたいた。
天下御免の沖田総悟の肩をつつくというのは、なかなか勇気がいるものだ。


「ん?」
「加恋さんのようすが」


座り込んだまま一向に立ち上がらない加恋さんを指差した。
髪で顔は見えないが、なんか顔色悪いですよ、と呟いて教えると沖田さんの目がほんのわずかに細められた気がした。

ちょっとはらはらしてそれを見守る。この人余計なことしなきゃいいんだけど…



「どした加恋」

が、心配をよそに沖田は新八の横をすり抜けて前に出ると、すっとしゃがんで加恋の肩に手をおいた。

「具合悪いのか?」


そう言って、顔を覗き込んだ沖田さんは、ぱちくりと大きな目をまばたきさせて「そうか、お前ぇ…」と呟いたきり、だまってしまった。


神楽ちゃんが僕の隣に立ち、そっと
加恋どうしたアルか?と気遣わしげに囁いてきたが、僕にはもちろんこたえられない。

沖田さんが向こうで加恋さんに尋ねる声がした。

「気持ち悪い?」

その声は、いつも加恋さんに向けるのよりは幾分か優しい。

首を振る彼女の髪が揺れて、それが大丈夫だから心配するなとでもいいたげだった。

「隊長大丈夫、わたしどこも悪くないの。ほんとよ」

「んなこと言ったって、顔真っ青じゃねーか。
気分悪いんだろ?」


それとも、

と続けて、沖田さんは突然その顎をつかんだかと思うと、白く小さな顔を強制的に自分の方へ振り向かせる。

加恋の深緑の綺麗な目が、見開かれるのが、こちらからも最後の一瞬ちらっとみえた。


「怖くなっちまった?」


バキ!


それは一瞬のことだった。


沖田さんは次の時、手を振りかぶったと思うとその手刀を思い切り加恋さんの首筋に打ち込んだのだ。



さすがの加恋さんも急所への渾身の一撃はこたえたようで、その瞬間にもう気を失っていた。


「ふう、手のかかる小娘でぃ」

「なっ…
にをしとんのじゃアンタはァぁぁ!!」


倒れた体を抱えた沖田さんの胸ぐらを掴みにかかる。

「ちょっと、ええ!?あんたなにしてんすか本当に!気絶してるじゃないですか!」

「愛の一撃だろうが」

「愛の意味わかってんのかアンタ!」


なぜ気絶、なぜこのタイミングで手刀なのか。
全く意味がわからず、状況が悪化してってる気しかしない。

神楽は、泡を吹いて気を失っている加恋の頬をつつきながら、「タイジョブアルか〜ゾンビか?ゾンビのモノマネアルか?」などとおちょくっている。


「んなことよりなぁ、今はあの謎の幽霊の問題だろぃ、そしてここから脱出し生き延びる。
そのためにはこいつが邪魔だったんでェ」

「悪魔みたいなやつだよこの人!」

「そして俺は副長の座につくと。」

「言ってる場合か!」

「でもそうアルな、あれは一体何だったヨ?オバケ?銀ちゃんたちは死んじゃったの?
無事アルか?」


どっこいしょと腰を下ろした沖田さんは、加恋さんの頭を膝の上に寝転がせ、その髪をいじりながらこんなことを言う。


「実は前に土方を亡き者にしようと外法で妖魔をおびき寄せようとしたことがあってねィ…
ありゃもしかしてあの時の」

「暇なの?ねぇ暇なの真選組って!?!」


その聞き捨てならぬ話を聞いて、今度は神楽が顔を赤くして立ち上がる。


「元凶はお前かァ!おのれ銀ちゃんの仇!!」

「だぁーっもう狭いのにやめろっつーの!」



またしても2人のじゃれ合いが始まった。本当この2人会うたびにこんなんで、気があうんだか合わないんだかわからない。


銀さんと土方さんにチョット似てるよな…
あの2人、無事なのだろうか?

そして首筋の強打により気絶してしまった加恋は大丈夫なのだろうか?


例の化け物は?
話を聞いている限りでは、どこにいようが人のにおいを嗅ぎつけて現れるような感じもした。

狭い部屋に四人もの人間が集まって、かっこうの狙い場だろうになぜここにはよりつかないのだろう…?


そこまで考えた時だった。


新八の頭に閃光が走る。
細い煙をつるつると流している蚊取り線香が目にとまった。

大量発生しているという加恋の言葉。


なんか、全てがわかった気がした。

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