かわい子ちゃんの味方だぜ



「息子?アンタそんなのいたの」


屋台にて、源外のじいさんの息子の悲しい過去をしっぽり飲みながら聞いていたところだった。

幕府に息子を殺された一介の市民が、今夜は将軍様にカラクリのお披露目だとよ。
なんだか妙な話だよな。


ふと、右の袖がくいくいと引かれた。

「ねー銀ちゃん、これ食べてもいーい?」

「ん?あ、あぁ…」


ほんの少し幼さの残る美少女顔をわあいっと華やかせて、加恋は俺のぼんじりにかぶりついていた。

おいしいねぇと微笑む加恋を見てると、じいさんの話に一人で湿っぽくなってた自分がアホらしくなってくる。


「おまえいいよな、自由人で」

「風のように自由ですが隊長の命令のまえでは奴隷も同然です」


にこにことそう言い放つ加恋に俺は頭痛を覚えた。

ホントろくなもんじゃねぇな沖田の野郎は…こんないたいけな少女の口から「奴隷」って。
奴隷っておまえ。


「あのさ加恋ちゃん、すごーく言いにくいんだけど、君絶対ペット以下に思われてるよ」

「ペットだよ?」

「いやねだって、おまえ命令されたとか言って実態はあいつの一人遊びの為にこき使われてるんだよ」


加恋は首をかしげるような仕草をして、大きな目をくりくりさせている。

「いや、つーかおまえそもそも命令に従ってねえじゃん、あいつの代わりに仕事するんじゃなかったの」

「してるよ」


加恋はこちらをまっすぐ見ていた。
なんだその目は…

まるで俺の言ってることが不可解だとも言わんばかりの顔である。


「してるよ、いま」


顔はかわいい。
それは認める。

仕草だって愛らしい。素直だし癒しになる。


だがそこまでだ、俺には沖田くんの感性が全くわからねぇ。この子とんでもないただの不思議ちゃんだ。


「…おまえ、よく真選組なんてやってるな」

「銀ちゃん、戦は最後には度胸なの。それだけだよ、わかるでしょ?」

くすくす笑う加恋の言葉に、「戦って言やぁ、」と源外のじいさんが口を挟んできた。


「お登勢から聞いたが、てめーも戦出てたんだってな」

「あん?戦っつっても、俺のはそんなたいそうなモンじゃねーよ」

首をかきながら当時の戦況を説明してやった。

そう、おれたちの時には攘夷戦争も勢いをなくして、残ったバカな侍だけがゲリラ戦に挑んでたくらいなのだから。


「仇を取ろうとは思わんのか」

「え?」


不穏に響いた言葉に、爺さんの方をみた。


「死んでった中にかけがえのない者もいただろう…

そいつらために、幕府を討とうと思ったことはねーのか?」


「おいじーさん、アンタ…」


俺はあわてて隣の小娘を振り返った。

仮にも幕臣の前で、「幕府を討つ」って!!


「なあにぎんちゃん?」

だが加恋は俺のネギマをほおばりながら首をかしげる。

なんだよ最早話聞いねぇじゃねーか。

お前やきとり食べたかっただけだろ、正確に言うと俺の金で。

(もちろんさらに正確に言うなら源外にもらった銀時の金、である!)


「あーあいかんいかん!
やっぱ徹夜明けの酒はきくわァ」


少し張り上げた声でそう言うと、源外はガタンっと席を立った。

「オーイ三郎いくぞォ」


遠くに見える、神楽の跨ったロボに向かって叫びながら人ごみに消えていく。


神楽と新八、そして隣に沖田くんと思わしき人物を見つけ、思わず加恋においっと手を振る。

「沖田くん向こうにいるけど!
明らかにウチの子達と遊んでますけど!」

「そうなの、隊長ってば、ヒドイよね」


湯飲みのお茶を見つめながらそう言う加恋に、おれは言葉を失った。

何もわかってないと思ってたが、加恋なりにわかってたのだろうか?

どーみても沖田くんが任務押し付けてるって…

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