独占の炎



事件は思わぬ幕切れを見せた。


屯所に出没していた霊の正体が分かったのだ。


眼鏡が自分の推理を俺と神楽に語ったので、俺たちは蔵を抜け出して屋敷へと向かった。

が、そこでは事態はすでに収束の方向へと向かっていた。

銀時と土方がまさにそれと戦っていたのである。


新八の予想通りそれは蚊の天人で、子供を身ごもった女の蚊天人は血を欲してこのむさい屋敷に居座って隊士たちを刺しまくってたらしい。



「ったくよォ〜やっぱ幽霊なんかいなかったじゃねぇか。お騒がせもいとこだぜ」

「オメーが一番お騒いでたんだろうが!」

「ハァ!??!お前がそれ言いますかビビりマヨネーズ侍さんよォ!」


結論幽霊がいようがいまいがこの人たちのうるささには変わりはなく。

すっかり元の調子で言い合いをする2人に、チャイナと眼鏡も呆れ顔だ。


「これだから男だらけの所帯ってーのはむさ苦しくていけねぇ。
こいつぁいよいよ虫除けついでにリフレッシュ対策が必要ですねィ、手始めに土方を捕獲しよう」

「あんたリフレッシュの意味わかってるんですか」

眼鏡が肘でこづいてきた。
その腹に小突き返すと思ったよりツボに入って、ぐおおという呻きとともに新八が沈む。


「あんたァ何してくれてんですか!」

「悪りぃ悪りぃ力加減がな」

「あんた…加恋さんにもいっつもこんなこと…を…」


ありゃりゃ!
眼鏡が泡吹いちまった、気絶してんのかまさか?

「お前何やってるネ!」
「いやいや、お前んとこのこのメガネが軟弱すぎるんだろ」

「新八のことじゃないアル!
お前、加恋はどうしたアルか?」


加恋。

その名を聞いた時、おれはさすがにあっと我に帰った。



「寝てるあいつおいてきたアルか?あそこに?」

チャイナのブルーの目が見開かれる。

そのにごりのない瞳がおれを写して、…奴の青の海の中に、俺はいた。


俺は無表情だ。


また置いてきたのかよ。
俺の瞳が滑稽なものをみるような眼差しを向けている。

あいつはただのペットで、ペットだけど、あんなとこにほっぽってきてそれで平気なわけじゃない。



「…行ってくるわ」

ふっと踵を返すと、旦那や土方さんがこちらに気づいたような感じがした。


「総悟?」
「おいおい、どこ行くんですか?
また置いてきたのかよ?アイツのこと」


旦那の声はいつもと同じように間延びしてるが、先端にわずかな棘をふくませていて、とても旦那らしい台詞の投げ方だといつも思う。

振り払うようにきりきり歩いていると、ふっと横に影が出た。


「僕も行きますよ」
「…ついてくんなよ」


メガネをくいっと押し上げながら新八が俺と同じ速度で、腕を振りながら歩いて横につける。


「アンタだけに任せてらんないですよ」


あんたら2人にどんな過去や関係があるかは知りませんけどねぇ、
友達として、もっと大事にしてもらわなきゃ困ります。

前を見て歩きながら新八はそんなことを言う。


友達、ねぇ。

笑っちまう、あいつに友達なんて、そんな殊勝なタマかよ。

でも、そうだな。なんだろうな。


「おれも別に、…俺を好きだなんて物好きなやつ、粗末に扱いたいわけじゃないんだがねィ」

あいつのこと、俺だって気にかけてるつもりなのにな。
すぐに思考からあぶれて放置しちまう。
なんでなんだろう。

なんでずっと見てられないんだろう

あいつみたいに、好きで好きでたまらないなんて、そんな一途で一生懸命な感情は向けられない。
俺たちは釣り合ってない。


「けどおれだって、嫌いなわけじゃねぇよ」


なのになんで、大事にしてることにならないんだ?


メガネが俺の言葉を黙って聞いて、そしてわずかに俺のことを流し目に見ているのを視線で感じていた。

俺はきっと生まれてこのかた、誰かを、何かを、心から大切になんてできたためしがねぇ。

多分、逆だ。
大事なものほど、俺は壊す方向へ運命を向けてしまう。

自分自身のことも、血を分けたただ一人の家族も、それを誰より愛し護らんとしているはずの同士も、そいつと俺をつかわす太陽も、大切な人たちみんな。

その夢でさえ…

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