飼い犬は手を噛まない
隊長と私の関係。
何かと聞かれたら私はもちろん答える、恋人!と。
そしてペットであることも認める。
「ふふ、隊長かぁっこいい〜」
今日も懲りずに文机から隊長のブロマイドを取り出し、うっとり眺めてた。
あ、これは例の怪しげなショップでこっそり購入ししたもの。
(でも隊服で寄ったもんだから、私もブロマイド撮られてしまったんだけど。)
凛々しいお顔…
もちろんかっこいい人は他にもたくさんいるし、世の中的には土方さんの方が『イイ男』らしい。
でも私にはこの人だけ。
だって…
「加恋さん!!」
「わぁぁっ」
突然の声にびっくりして飛び上がった。
反射神経でブロマイドを覆うように机につっぷす。
首だけ後ろに向けると、一番隊の神山くんがいた。
「あ、神山くんオハヨ!」
「おはようございます。あの、何なさってたんですか?」
「え?あこれはストレッチだヨ〜いっちにっ」
私はつっぷしたまま足を激しく動かすが、机だけがガタガタと揺れて神山くんにはなんとも奇妙な生物のように見えただろう。
「加恋さんでも驚くことがあるんですね、自分驚きッス!沖田隊長に報告しておきます!」
「やっ、いいから!それはいいから〜!」
私は叫びながら光の速さでブロマイドを引き出しにしまうと、神山くんの前までかけていった。
「で、なになに?用でしょ?」
「あ、そうなんですよ加恋さん!
今朝頓所に来た、お祓い屋の妙な三人組がいましたでしょう」
「例のお化け事件のために呼んだ人たちだよね!隊長たちが話し聞いてるんでしょ?」
「それが、どうも奴ら万事屋の三人だったようで」
え!?万事屋って、銀ちゃんたち?
私が目をぱちくりさせていると、
「それで、今吊るしあげたようなので加恋様も来いと隊長のご命令でして!」
と神山くんが息荒く敬礼した。
数日前から屯所を騒がしている、赤い着物の女の幽霊。
目撃多数、ついでにやられた隊士も多数で攘夷志士にもゆるがぬ真選組は思わぬところで痛手を食らっていた。
副長たちだってだいぶ苛立っていたはずだ。
でも、万事屋の3人を、つるしあげた!?
それは大変だと、私は神山くんを置き去りにして光のごとく廊下をかけていった。
「銀ちゃん神楽にゃんっ」
スパァンと最後の襖を開けると、大きな縁側に出た。
庭では案の定、大きな木からぶら下げられた三人の姿。ああっ、なんてかわいそうな…
「ていうか加恋さん今僕のこと呼ばなかったよね?え?明らかに2人の名前しか呼ばなかったよね加恋さん!」
私は叫ぶ新八くんを見つけてあわてて駆け寄る。
「ごめんね新八君!」
「や、いいんですけどねそんな、全然…来てくれただけで…」
ほんのり頬を染める新八くんのそばにより、そのメガネを鼻当てがうまく当たる位置にずらした。
「メガネずれてるときもちわるいよねごめんね本当気がきかなくて…」
「いやそこじゃねぇぇぇ!
結局終始メガネの存在しか考慮されてねーよ!!」
「おーい加恋ちゃん助けておくれ、銀さんたち頭パーンしそうなのよ」
気だるげな声のする方を見ると、銀ちゃんが虚ろな目を向けている。
「大変、なんかみんな顔色悪いし…早くおろしてあげて!」
縁側で無表情にこちらを眺めてる隊長やトシに叫ぶけれど、誰も手を貸してくれない。
みんな顔怖い…イライラしてるから、騙されて余計おこってるんだ。
「ちょっとまってね、今解いてみる」
わたしはまずすでに目から生気を失ってる神楽ちゃんの縄に手をかけた。
しかし結び目が固く、神楽ちゃんを気遣いながら解いていたのでは到底ほどけそうになかった。
「おい奴隷ペットなにしてるネ、お前真選組なら上等なモン持ってるダロ!」
「なに?刀のこと?」
「それで早く一刀両断するヨロシ!」
だめだよ、私今刀持ってないもん、と縄を掴んだまま言い放つと隣でぶら下がってる銀ちゃんが牙をむく。
「だからお前はなんで真選組隊士やってんだァァ!
お前さぁホンット、そういうとこな!
携帯買ったのに毎回家に忘れてってぜんぜん携帯する電話になってない母親並みにイラつく!!!」
「も〜ごめんなさいってば、今解くから!すぐにやるから!!」
銀ちゃんにまくしたてられて、私は気遣うことをやめて二人の縄に同時にてをかけた。
「ふぬぉぉぉぉ」
「ちょっ…っとまって加恋ちゃん!めりめり言ってる、すごい音してるんだけど何の音!??ちょっと、嘘!この子なに?なにこの力!」
次第にみしっ、ミシッと音を立てて縄が切れ始める。
白い手に血管を浮き立たせて力を込める加恋に、黙っていた男がふいに席を立った。
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