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答え合わせを行う授業。
私はふと、膝上に載せていたケータイ電話のサブディスプレイが音もなくぴかぴかと光っているのを見つけた。

こんなごちゃごちゃと機能のついた電子機械、私には不要だというのに。

『彼氏彼女といえばこれだろ、お揃いケータイ。逃がしませんぜ佳音、今日ここで購入を決めてくれるまで俺はこの店から離れやせん』

『そ、頑張ってね、バイバイ』

『ちょちょちょ!この状況で置いてくかフツー!』


しつこく腕を引かれて、機種代は自分がプレゼントとして払うからとせがまれ。

結局私はコレを購入したのだ、つまり折れたのだ。

(あたしってなんで沖田のあーゆーのに弱いわけ?断われよ…)

悶々としながらぱかっと画面を開いて、新着という文字を押す。
メールの送り主は沖田。

いや、でしょうね。

そもそもアドレスは沖田とゆきちゃんにしか教えてないし、ゆきちゃんが授業中に携帯なんていじるわけがない。

届きたてのメールを選択して、先生にばれないようこっそり開いた。



『to: 佳音

おはようございまさぁ↑↑🏫

こっちは銀八の現国の授業なんだけど、暇すぎて困っちまうぜ😣

今日はいい天気ですけど、どーにも蒸し暑くて嫌だよな〜↓🍧

はやく佳音に会いたいです💕😊🎵』



「うっっっざ!!!」

目ん玉を見開いて思わず全力で叫んだ私。

しん、と静まり返った教室にはっとし、消え入りそうな声で「すみません」と謝った。

「は、いや、あのすみません…俺たちちょっと…あのしゃべっちゃって…」

「は?」

隣にいた男子2名が見るからに縮み上がってガクブルしている。

そういえばさっきから二人でノートを見せ合って話し込んでいたが、答え合わせの時間は近くの人と相談していいことになっているからルール上何の問題もない。

どう見ても勘違いしていた。

「あの、私たちも…ちょーっとうるさかったかもって…反省してます」

今度は前の女の子二人。

「…ちょっと」

「ふふっ」

くすっと愉快そうな笑い声が聞こえて、私は苛立ちながら後ろを盗み見る。

ゆきちゃんが、面白そうに肩を揺らして笑っていた。

「笑ってないで助けてよね」
「だって佳音ちゃん…怖がられすぎ…」

月詠は頓着せず、佳音静かにしなさいとだけ告げて何食わぬ顔で授業を進めている。

笑い事じゃないわよ、と後ろに手をやりながら囁く。

「んっとに、沖田の野郎のせいよ」
「沖田くん?」

頷きながら改めてメールの文面を確認する。

一文目の『おはようございまさぁ↑↑』からウザさがカンストしている。
最初からクライマックスだ。

お前は女子か!!

なぁにが↑↑だよ、しかも後半で↓とか出てきてるしテンションの上げ下げ激しすぎるだろ。

しかも最後。
会いたいです💕😊🎵
じゃねーよ、絵文字何個つけんだようっとーしい!女子高生か!

いや女子高生でも今どきこんな付けないよ、ハートなのかニコニコなのか音符なのかはっきりしろ!


沖田は暇なのか?
イライラと私は慣れない手で返信を作成する。

『to: 沖田

うざい。』

それだけ打ち込んで、ケータイをぱたんと閉じると私はカバンの中に突っ込んだ。

ほーんと、女々しくて困るわよね、アイツ。


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