本当に遅くなってしまって申し訳ないです…!そして待たせた割に大したものでもございませんが、一応第…何回目?かのオフ会のお礼小説です。盗賊学パロでゲーセンネタ、です。
サンイヴェでもイヴェサンでも見れるので、どっちかしか嫌!という方はすみませんがブラウザバックお願いします。












「ゲーセン行くぞ。」

 目の前でせっせと帰る用意をしていたイヴェールは、俺の言葉にぴたりと動きを止めた。ちら、とこちらに視線を向け、次いで大きな溜め息を一つ。教科書をカバンにつめ終え、チャックを閉めてから身体ごと面倒くさそうにこちらに向ける。

「今から?」
「今から。」
「また?」
「ま・た!いいじゃん、どうせヒマなんだろ?」

 暇だけど、と言い鞄を肩に掛け教室から出るイヴェールを追って、二人で廊下を歩く。隣に並ぶとまた視線を向けられる。すぐに逸らされたが、不機嫌なわけではないらしい。つんと澄ました美貌のまま、あくまで普段通りイヴェールは口を開いた。

「よく飽きないな。」
「うーん、なんつーか……あんまり金を使わないようにしてるってのもあると思うけどな。モノを貰えるってのもある。」
「割りに合わないのに?」
「ゲームの楽しさプラスアルファで元取れんだよ。」
「ふぅん。俺には分からないけど。」

 まあそうだろう。イヴェールは純粋な損得勘定で物事を考える。当然ゲーセンの、しかもクレーンゲームなんて割りに合わないゲームを好んでやるような奴じゃない。自分から好んでやるなんて言ったらきっと俺は行くのを止める。そしてイヴェールを家まで送って寝かせるだろう。
 俺が思い立ってすぐゲーセンに行って、イヴェールがそれについてくる。これがいつものパターンで、逆のパターンになることはなかったし、たぶんこれからもない。イヴェールってのはそういう奴だ。

 ゲームセンターに着いて、千円札を二枚分小銭に崩すと、早速色々と物色する。取りやすそうなの、欲しいもの、難しそうなもの……今日の持ち金と比べながらマシーン内の人形や箱を見つめる。
 とりあえず目についた、小さめの人形のクレーンをやることにした。二百円を入れ、クレーンを動かす。穴のすぐそばにあった人形をアームを使って押し、掴むというよりは押して落とした。簡単に取れたらやっぱり気分が乗る。もう一つくらい取ろうと、また二百円を入れ、今度は今取った奴の隣に置いていた猫のやつを狙った。

「……取れるか?きつそうだけど。」
「んん、きつい……あ、失敗。」

 もう二百円入れた。今度こそは、と側面からも見て、アームの位置を調整する。アームを下し、そしてころん、と転がって落ちた。

「うっし、取れたー!」
「最初から五百円入れた方が安上がりだったな。」
「いいの!取れたから!あ、まだやるからこれ持ってて。」

 猫と、さっき取った人形をイヴェールに渡す。イヴェールは呆れを多分に含んだ視線でこっちを見てきたけど、とりあえず無視した。どうせ怒ってさえいなければ、大抵のことは付き合ってくれるんだ。別にいいだろう、と次のクレーンを物色しに歩いた。
 とりあえず目についたクレーンを一回ずつやった。小さいヒヨコがいっぱい入ったやつだとか、お菓子の箱だとか、とりあえず一回やれば取れるようなものばかりだった。案の定、イヴェールに持ってもらっていた景品は片手では余るくらいになり、今や両腕に景品を抱えているイヴェールは溢れそうになる小物に悪戦苦闘していた。

「持てる?」
「キツイ。というか、自分で取ったなら自分で持ってろよ。」
「終わったら持つって。あと五百円だしちょっと待って。」
「ローランサンに荷物持ち扱いされるなんて……心外だ。」
「いいじゃねーか、似合ってるぞ?その猫とか、イヴェールそっくりだし。」
「後で殴るからちゃんと覚えてろよ。」

 ひく、と嫌な笑みをひくつかせたイヴェール。覚えてても良いことがない宣言だったから、覚えないことにした。おっかない。

 逃げるようにしてクレーンの間を走っていた時、ふと、目の前に白いウサギが現れた。
 やたらと耳の長いそいつは、真っ赤な目をしてこちらをじい、と見つめてくる。ふわふわした毛はさわり心地もよさそうで、うっかり手をのばしそうになった。もちろんガラス越しなので、手触りなんか確かめれるはずもない。
 白と赤の二色だけでできているふわふわの人形。それもウサギの。女子がこの上なく好きそうな人形を、なんでか無性に欲しくなってしまって。俺は迷わず財布から五百円玉を取り出してゲーム機に入れた。からん、と音が鳴り、さっそくクレーンが動き出した。
 俺に追いついたらしいイヴェールが隣から覗き込む。ボタンを押し終わってたので、クレーンの様子を横目にイヴェールを見ると、目をいつもより見開いて、今にもへえ、意外だな、と言い出しそうな表情だ。

「へえ、ローランサンがウサギ。」
「意外?」
「意外。」
「言うと思った。俺もそう思うし。」

 クレーンは少しひっかかったけど、すぐ人形の重さに負けて動かせなくなる。する、と滑ったアームはそのまま虚しく元の場所に収まった。あと二回。
 今度は脇の下から押すようにして落とすことにした。横からガラス越しに場所を確認し、慎重にボタンを押す。

「どうだっ。」
「きついな。」
「いや、でも…おお…?」
「ん……?おお……」
「お、おおお…!!…あー!!」
「あー。」
「そこは一番駄目なところ…っ!」

 腕と胴体の間にバーが挟まった、一番嫌な体制。半ば敗北が見えたようなものだ。こんなの、重い人形じゃあ持ち上げるのも動かすのも出来ない。
 何回も一緒にゲーセンに来てるイヴェールにも事の深刻さはわかるらしい。微妙な表情をしてガラスの中を見つめていた。泣きたい。

 最後の一回。もう引っかかった腕の下にアームを押し込むしかない。さっきよりも必死に、ガラスにへばりつくようにして位置を調整する。今回ばかりはイヴェールも協力してくれ、二人して必死になってガラスの周りをうろついた。
 イヴェールが指を当てた場所へアームを移動させる。がが、がが、といかにも機械と言う音を立てながら、クレーンは下りていく。予定よりも、ずいぶんとずれた場所に。

「これは、うん、無理だ。」
「諦めるな!!」
「いやローランサン、どう見ても無理だ。無理だから。」
「お前ならできる、できっ……なかった……。」

 微動だにしないまま、ウサギはその場にとどまった。完敗だ。お前の勝ちだよウサギ。
 溜め息ひとつ、イヴェールに声をかけてゲーセンを出た。後ろ髪をひかれる思いだけど、仕方がない。自分の中で決めたルールを破るわけにもいかなかった。

「いいのか?可愛いウサギ。」
「可愛いっての強調すんな。」
「まあまあ。で、ウサギは?」
「んー、粘りたいけど、俺もう金使えないから。悔しいけど一週間は諦めるわ。」

 ふぅん。そう呟いて、イヴェールは俺に人形を突き出してきた。ほら取れよ、とでも言いたげなそれに相変わらずだなぁと笑いが零れた。

「俺いらねーからイヴェールにあげる。荷物持ちのお礼!」
「毎回人形を大量に持って帰る俺の身になってくれない?部屋が人形で溢れてるんだけど。」
「いいじゃん。イヴェールに可愛い人形、すげえ似合うって。」
「可愛いを強調すんな。なに、意趣返し?」
「俺、馬鹿だから難しい言葉ワカンナーイ。」

 けらけらと笑ってやればひくりとまた笑みを歪ませる。でも、そこまで怒ってるわけでもないらしく、すぐにいつも通りの表情に戻った。イヴェール、俺見えてるからな、お前がさっきからずっと猫の人形の肉球触ってんの。








 ウサギが名残惜しいと思ったのもつかの間、俺はすぐに忘れてた。

 このウサギを思い出したのは、ウサギと出会ってからちょうど一週間目の、そう、今日、というか、今。

 目の前にずいと出されたそれは、確かに先週ガラス前で悪戦苦闘した末に逃がした、件のウサギだった。あのほわほわしてさわり心地のよさそうな毛といい、円らでどこか毒々しい真っ赤な目といい、まさにそれだ。俺は今の状況がわからなくて、それを差し出す仏頂面とその瞳を交互に見る。仏頂面はさらに口元を下げて、なんだよ、と口を開いた。

「え、なんだよってか、え、なに?」
「だから、これやる。」
「え、イヴェールが?俺に?何の得もないのにこれを?んなわけないだろ、裏があるんだろ裏が!」
「ローランサン、ちょっと後ろ向いてろ、なに、ちょっと目の前が真っ暗になって夜まで寝るだけだ。」

 というか、さっさと取れ、とこちらにウサギを押し付けるのは、損得勘定で絶対にクレーンゲームなんかしないと俺の中でもっぱら噂のイヴェールさんで。驚きで大したことも言えず、目をとにかくぱちぱちさせた。

「何、いらない?」
「いや、欲しい!つかえ、え?なんで?」
「たまたま取れたんだよ。普段馬鹿みたいに貢がれてるから、それでチャラな。」
「え、貢いでるわけじゃねーけど、これいいの?ゲーセンじゃこれレベルはレアだぞ!?」
「だから良いって。たまたま取れただけだしな。」

 イヴェールは緩く口元を上げ、やるよ、と一言。見た目に合わない男らしさ、太っ腹さに俺の鳥肌は今や感動のそれとなっていた。

「イケメン!抱いてっ!」
「馬鹿サン、鬱陶しいから。あと、今日はもう帰るから。」
「あ、そうなの?いや、もうマジでありがとう!イヴェールさんきゅな!」

 自然と笑顔が浮かぶ。そりゃ、自分の欲しいものを、それも貰えるとは思ってなかった人物から貰えたんだ、嬉しい。上がる頬のまま、俺は腕に抱いてたウサギに顔を埋めた。予想通り、柔らかい。
 イヴェールはどういたしまして、と言ってさっさと帰ってしまった。

もう少しぐらいお礼を言わせてくれてもいいのにな、などと思いながらも、俺は湧き上がる嬉しさのままゲーセンへ向かった。今日は物色するだけして、帰ろう。

 店内をうろうろと彷徨っていると、よく見かける店員がこちらに気付いて手を振ってくれた。そちらへ近づくと、店員はいつものようににこにこと応対してくれた。

「お久しぶりです。今日は何をするんですか?」
「今日は金欠だから見るだけ!あっ、見てこれ、もらった!」
「あら、それ、もしかして最後の白の子じゃないですか?」

 ん、最後?疑問のまま首を傾げると、店員は不思議そうな、というか、意外そうな表情でウサギを見つめていた。

「一週間くらいね、ここに通い詰めて下さった学生さんがいて。ほら、よくあなたといらっしゃるあの方です。ウサギがなくなっていく中、毎日千円ずつ、これだけを狙って帰って行ったんですよ。昨日、あんまりにも一生懸命だったので……サービスして、位置を修正してあげて。一週間かけてようやく取っていらっしゃったんですよ。だからよっぽど欲しかったんだと思ってたんですけど、」

 あなたが持つことになったんですか、と言う店員の話に、俺は、何とも言い難い恥ずかしさを味わった。なにそれ、イヴェールが必死こいてこれ取ったって意味?なにそれ、なんでそんなことしてんの。そんなの俺に渡してどうすんの。
 いや、でも、多分これは、普段貰ってるお礼と言うことだろう。そういえば似たようなことを言っていた気がする。
 でも、お礼だからって、そんな必死になんなくてもいいだろ。

「あ、うん、そう、デス。」
「大事にしてあげてくださいね。何せ、最後の一匹なんですから。」

 にこり。店員の笑顔が、いやに眩しかった。













 翌日、ゲーセンにて。
 いつもどおりイヴェールを連れまわしながら、俺は仕返しともお返しとも取れるある行動をもくろんでいた。もちろんイヴェールは知るはずもなく、さっきからずっと俺のとった景品を持っていた。
 違和感に気付いたのだろう、イヴェールはついに俺を呼び止め、眉間に皺を寄せながら口を開いた。

「ローランサン、これ、いつまでやるんだ?結構使ってるだろ?」

 不思議そうなイヴェール。俺は、恥ずかしいくらいいじらしいサプライズのお返しに、にやりと笑った。

「七千円分やる気。」
「はぁ!?」

 ローランサン、お前、馬鹿じゃないのか!?止めろ!

 そう叫ぶイヴェールの声をBGMに、俺はもう一度店内を物色し始める。

「ざまぁみろ。」

 イヴェールにばれないように呟いて、口元に深い笑みを刻んだ。




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