(2008.05.26)



ああ、一体どうしたらいいのでしょうか。
後ろには壁、左右には私を囲むように壁に付けられた手、目の前には真剣な眼差しでこちらを見るサソリさん…。突然のことで思考回路が上手く動作しない頭で事の発端と今現在の状況について考える。私はただ、今手に持っている風影様からの書類をサソリさんに届けにサソリさんのいる部屋を訪れて一言二言会話を交わして…おかしなことは何もないはずだった。なのに今どうしてサソリさんは私をこんなにも食い入るように見つめているのでしょう。私は首を傾げながら恐る恐るサソリさんの様子を伺いつつ、もしかして先程の会話に何か粗相でもあったのかと思い、あの…と申し訳なさそうに口を開いた。


「私…何かサソリさんの気に障ることを言ってしまったでしょうか…」

「…言ってねぇよ。」


気に障ることは、な。
そう言ってニヤリと口端を上に釣り上げるサソリを見て私はおもわず、気に障ることは…?と呟く。サソリさんが言うことを私なりに解釈すれば彼は別に私の行動や言動にご立腹というわけではなさそうで、でもならどうして、と考えれば答えはまったく見つかる気配を見せない。結局自己解決にすら結び付けられなかった私はおとなしくサソリさんが次の言葉を紡ぐのを待つことにした。じっとサソリさんを見つめ返せばたれ目がちな瞳と視線がぶつかった。


「気に障るわけじゃねぇ。ただ耐えられねぇんだよ。」

「耐えられな…え?」

「そうやって笑顔で近付いて来ては俺の心掻き乱しやがって…そんなくだらねぇ書類どころじゃねぇんだよこっちは。」


…ええと、私はますますこの状況がわかりません。サソリさんが決して怒っていないことはわかりました。だって合わせたサソリさんの視線、優しかったから。だけどやはりこんなことになった原因は私にあるみたいで、でも心当たりの全くない私は一体何をサソリさんに伝えればいいのかがわからない。それにこの書類、サソリさんはくだらないって…結構重要な書類だって風影様仰ってんだけどな…。頭の中でぐるぐる1人で押し問答していたら、わからねぇか?とサソリさんが私の目を覗き込むかのように見てくる。急に縮まった距離にほぼ反射的に驚きながらゆっくりと首を縦に動かせばサソリさんは深々と溜め息を吐いて、仕方ねぇ奴、と一言呟くとそのまま右手を動かして私の後頭部を押さえるとそのまま噛み付くように己の唇を私のそれに重ねた。

…唇を、重ねた…?

元々機能が低迷していた私の脳は当たり前のように事の状況が理解できず、ただぼんやりと、近いなーなんてサソリの端正な顔を眺めていた。だけど行為が深さを増していくたびに私の息は続かなくなって、その苦しさにようやく、サソリさんにキスをされている、と認識できた。私は内心焦ったものの、それよりも先にこの息苦しさから逃れようとサソリさんの胸をどんどんと叩いて解放を求めた。サソリさんはすんなりとそれを受け入れ唇を放すとフラフラする私をそのまま引き寄せるとすっぽりその腕の中に抱き締めてしまう。そんなに身長は変わらないはずなのに、やっぱり男の人なんだな、なんて改めて思った。抱き締められたことによって前によろけた私の足元で何かくしゃりと音を立てた。そういえば突然の口付けに持っていた書類を全て落としてしまっていたことに今更ながら気が付く。ああ皺になっちゃう!なんて最初こそ心配したものの、first name、と耳元で名前を呼ばれて意識はすぐに書類からサソリさんの方に向いた。


「する事なす事、お前の全てが気になって任務なんか手につかねぇ。」

「…サソリ、さん…?」

「だから…だからちゃんと責任取れよfirst name。」


耳元でそう囁かれて、その甘さになんだか酔ってしまいそうになる。私は自分の気持ちを返そうと口を開こうとするけどキスの余韻とサソリさんの言葉で中毒症状を引き起こしてるみたいで言葉が上手く出てこないから、代わりにそっとサソリさんの背中に腕を回して、きゅっと力を込めた。どうやら私の想いは伝わったみたいでサソリさんはクツクツと喉の奥で笑いながら私の髪を撫でる。すると今まで感じなかったのに何でか急に恥ずかしくなってしまった私は、サソリさんの柔らかい赤毛に唇を寄せるようにして顔を埋めた。




(塞がれた、口)






(080526/甘い鎖で心を拘束)
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