(2008.03.08)



ふらふらと歩いてきたと思ったら急にその場に座りだす。俺はそんな少しぼんやりとしたfirst nameを見た。その目は一体何処を捕らえているのだろう、俺にはわからなかった。


「first name」

「…なに、イタチ?」

「団子を一緒に食べないか?」


ゆっくりとまずは俺に、次に俺が手にする団子へと視線を向けたfirst nameはしばらく沈黙した後、軽く口元を緩めて、食べる、と笑った。俺はそれならばと立ち上がりfirst nameの傍へと歩み寄るとその小さな体の隣に腰掛ける。普段ならば向こうから元気に駆け寄ってくるだろうが何故か今のfirst nameを走らせる気にはなれない。もし走らせでもした先に述べたとおりの小さな体だ、今のぼーとしたfirst nameではすぐに転んで怪我するのがオチだろう。そう、先に述べたとおりの小さな…体?


「…first name」

「んー?」

「少し、背が伸びたか?」


俺が差し出した団子を一本手に取ったfirst nameは再びゆっくりその瞳を動かして俺の目を覗くように見る。そう思う?と笑顔で首を傾げるfirst nameに俺は首を縦に動かし肯定の意を示した。それを見たfirst nameは笑顔のまま視線を手にした団子へ戻すと、私はただいま成長中なのでーす!と元気良く言ったと同時にぱくっと団子を一口ほうばった。


「んーおいし!イタチはいつもおいしいお団子持ってるねー!」

「いつもではない。」

「でも持ってるときの方が多いよー!ねえ、これどこのお団子?」

「これは…今日のは木の葉へ行く途中にある茶屋のものだな。」


俺の言葉に一度食べる手を止めたfirst nameは、木の葉?と驚いたように目を見開き俺の顔を見た。一体何をそんなに驚くのだと一瞬不思議に思ったが木の葉の抜け忍である俺が木の葉付近の茶屋の団子を持っているのはfirst nameでなくとも疑問を感じるだろうと思い、深く考えるのを止めた。そしてきょとんとするfirst nameに、買ってきたのは鬼鮫だがな、と付け足し言った。ふーん、とfirst nameは食べかけの団子を見る。もしかしてあそこのお団子かな?と呟くfirst nameに、知っているのか、と問えば再びその顔に笑みが宿った。


「前家出したときの、帰ってくる日に食べたとこかも。」

「ああ…確か木の葉にいたんだったな。」

「うん!あそこ豊かだねー食物おいしいし温泉あるし、特にラーメンおいしかった!」

「…ラーメン…。」


一楽のことか、とすぐに頭に浮かんだ俺はおもわず溜め息を吐いた。里を抜けてからもう何年か経つが以外に覚えているものだな、と思った。確かにまだ、里で暮らしていた時間の方が長いといえば長いのだか。そこまで考えて不意に、隣で座る小動物のことが気になりだした。俺は、きっと暁のほとんどの者がこの娘の生い立ちを知らない。


「…first name」

「なーに?おかわりくれるの?」

「あ?ああ、好きなだけ食べるといい。…first name、」

「んー?」

「…first nameの育った場所はどんなところだ。」


再びfirst nameの動きが止まる。団子を口に加えた姿のままぴたっと固まるfirst nameから、んー…と悩むような声が漏れた。もしかして聞いてはいけなかったのか、と少しの心配が頭を過る。しかしfirst nameは存外、けろっと笑いながら俺を振り返った。


「私じゃよくわかんないんだけどねー」

「何故わからない、お前の故郷だろう。」

「そうだけどなんだけどー…ああでもひとつだけはっきりしてることはあるよ!」

「はっきりしてること?」

「あのね、私の昔住んでたところね、違うの。」


隠れ里じゃ、ないんだ。
そう言ったfirst nameに俺は疑問を抱く。隠れ里でないならばどうやってfirst nameは忍びになったのだ、と。first nameは正式メンバーではない為ほとんどの任務が単独行動だが、だからといって暁でまったく誰かと組んだことがないわけではない。普段が単独行動な分、誰と組んでもなんら支障の出ないfirst nameとはきっと暁の者ほとんどが一度は組んでいることだろう。もちろん俺も組んだことはあるがそのときfirst nameは忍術を使えていた。しかも感覚的には遊んでいたのだろう、ご丁寧に敵一人一人に違う系統の術を繰り出していた。明らかにfirst nameは忍びだった。なのに、


「…ねえイタチー」

「なんだ?」

「最後の1本欲しいー」

「最後?…よく食ったな」


最後と言われ下を見るといつの間にか団子は残り1本となっていた。そんなに食べると夕飯が食べれなくなるぞ、とキラキラとした眼差しで残った最後の団子を見つめるfirst nameに言うと、へーき!と顔を勢い良く上げて俺を見た。俺は少し考えたがもし夕飯が食べれなくなってもそれはfirst name自身の責任であるしすでに手遅れだろうから1本増えたところで関係ないだろう、とfirst nameに団子を差し出した。嬉々として団子を受け取ったfirst nameは酷く嬉しそうにそれを食べ始める。俺は、こんなに幸せそうに団子を食べる奴も珍しい、とまるで溶けたアイスのような表情のfirst nameの横顔を眺めた。元々団子などそんなに量のあるものでもなく、すぐに食べ終えたfirst nameは立ち上がると、んー!伸びをして、おいしかった、と呟く。なんというか、本当においしかったのだな、と妙に納得してしまった。


「イタチありがとう!」

「いや…突然誘ってしまったが平気だったか?」

「あー全然大丈夫だよー。さっきもペインのとこから帰ってきただけだし。」

「任務の話か?」


そう聞くと一瞬きょとんとしたような顔をしたfirst nameは笑いながら、うん、と首を縦に振った。しかしながら、だけどまだ少し先の話でちゃんと話終わってないんだ、とちょっとした無駄話でもするような調子のfirst nameの笑顔がやけに気に掛かった。





ぼんやり少女の事情

(鬼鮫ー!ご飯お代わりちょーだい!)(…本当によく食うんだな…)

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