getgive | ナノ
蛇を束ねる頭は純白の芸術品だ。 芸術品は呪いを背負った女を拾った。
「なァ、お前」
月見酒を二人で楽しんでいる時、阿南がふと噤んでいた口を開いた。呼び掛けられた涼雨は彼の方へと見向きもせず、酒越しの満月を楽しんでいる。それでも彼は気に留めずに言葉を紡ぐ。
「糸子殿はどうなのだ?」 「……」
しかし予想外にも従兄の声は小さく、空気へと溶けてしまう。涼雨はその空気を拾うかのように視線を本物の月へと上げた。
「あぁ、この前深早の着物を作ってくれたらしい」 「ほう。だから最近深早の機嫌が良かったのか」
耽ったような溜息をつく涼雨を見て、彼は深早が嬉しそうにニコニコと笑いながらそこら中を走り回っていた理由が何となく手に取れた。確か彼女は真新しい着物を羽織っていたような気がする。
酒は未だに減る気配が無い。人の形をしていようと蛇は蛇。忌み嫌われていたり、神の化身だと崇められても、彼らは知らないと言いたげに独自の社会を気付き挙げ、纏め上げている。現に彼らは多数の生物を手中に収めて、月見酒を楽しんでる。
「善い人、だな」 「ああ。もう少し気立てが良かったら」 「それはお前に懐ききっていないからだろう、涼雨」 「るせっ」
軽く冗談を投げると、不貞腐れたように涼雨は酒を一気に飲み干す。自分とは違い涼雨は酒への抗体が出来上がっている。咎める理由など何処にも無い。 しかし、その様子はさながら自分の憂いを無かったことにするようにも見える。阿南はその理由を知っているからこそ、何も言えなかった。
どんなに糸子があの女性と重なろうと、阿南にはそれを変えさせる権利など一切無い。歯がゆい。血を分けたような従弟なら尚更である。
「? 何ジロジロ見てんだよ」 「何でもない。何でも。な」
阿南がそんなことを考えている間に大量のアルコールを摂取したのだろうか。やや顔が赤く染まっている。阿南は不思議そうな表情をしている涼雨を軽く笑い飛ばしながら、自分も酒をちびちびと飲み始めた。
「――いつかお前にも俺みたいに幸せになれよ」
そう囁いた言葉は、夜風が優しく盗んでいってしまった。
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