getgive | ナノ




隣にいるひょろりとした不健康そうな男は、一応彼の部下に近い同期と言えよう。決して同期に近い部下、ではない。

「お前は少し上司に甘えきっている」

菅はあと少しすれば桃色の桜が舞うであろう木の下で、不満そうに鼻を鳴らしながら岸和田を見た。行き成りそんなことを言われても、彼は如何反応したらいいか分からずいつもの笑顔がついつい固まってしまった。
ツツ、と菅の視線はやや狭いように思え、岸和田は分からないようにひょいと肩を竦め

「行き成りどうしたのよ」

といつもよりやや声を落として(とは言ってももともとの質は変えられないが)菅に尋ねると、彼は疲れたかのように息を細く長く吐き出した。

「お前は元気だなと思ったまでだ」
「いや、それだけ?」

そこまで言うと菅はふいと目の前の男から目を逸らした。岸和田は不審げに猫のような瞳を細めた。いつもの菅なら疾風の如く、嵐の如く叱咤するであろうだけに、今の上司は気持ちの悪いほど大人しい。大体、歯に衣着せず物事を叩き切ってしまう菅が、こんな事で言葉を詰まらせるものだろうか。

「あーっきっしぃー!」

唇をムツムツと動かしていたそのとき、底抜けに明るい子供の声が響いた。見ると自転車に乗った男児二人が岸和田に向かって手を大きく振っている。その姿は、芯から彼を慕っているようにも見え彼は思わず頬をほころばせ同じように手を振り返す。

「……人に好かれる努力をするのなら、仕事も真面目にできるはずだろ」

子供が去った後、まるで蝋燭の灯火を消すかのような菅の囁きに、岸和田は再度彼を一瞥しいしい目を白黒させた。
一体この人間は何を言いたいんだ? 僕に何を伝えたら満足するんだ? その一心で心をクルクルと回し、負けじと相手の目をじっと見詰める。

「今日の俺は可笑しいか?」
「ええまあ。二代目ハンナちゃんより気持ち悪いくらいの違和感を感じる」
「――轢くぞ」
「警官が?」

“二代目ハンナ”、その幻たる名を聞いた途端菅の米神が引き攣り、声が更に低く沈み所謂ドスの利いた声音に変化した。
面倒臭い。非常に面倒だ。もういっそのこと警官と言う名の皮で包み隠されているこの男の本性を絶叫でもしてやろうか。そんな大胆な考えが岸和田の中でムクムクと膨れ上がってきたが、最後に非常に恐れ慄くべき自体が待っている事は火を見るより明らかなので、彼はごくりとそれを飲み下した。

「……二代目ハンナはある意味俺かもしれない」
「? 何それ。自分は気持ち悪いって事?」
「あまり人からは好かれないと言うことだ馬鹿野郎」

そこで一気に謎が解けた気がした。成程、岸和田は目を大きく開きスンスンと鼻を鳴らす。単に彼は自分と僕を見比べているのか。何と回りくどい。何と面倒臭い。菅は少し後悔しているのか目を閉じ、俯いて頭を掻いている。彼の均等に並べられた睫の影から所々「悪いか、文句あるか」と言う濁声が聞こえてくるような気がする。

「これは嫉妬と言うことで考えても良いの?」
「……」
「3代目ハンナちゃん」
「轢くぞ?」
「ぎゃぁっ」

何も言わないので岸和田は取り敢えず自分の持ち芸の皮肉を披露したところ、有無を言わずに菅は両手の拳で彼の左右の米神を抑えるようにして頭を挟んだ。

「痛いッ! 凄い痛い! 何コレ! マゾヒストの癖に!」
「ほぉう?」
「やー! 痛い! 御免てば!」
「御免なさい、だろう? 上司への言葉遣いは大切にしろっ!」
「そんなに二代目ハンナちゃんが気に入らないの!?」
「じゃあお前は気に入ると言うのか!」
「身内にしたくない!」

そうして菅は思い切り両拳を捻り始めた。即ち岸和田とって凄絶なる仕置きになるわけで。痛み始めた目でちらりと菅を見ればそこには薄笑いを浮かべた上司。不気味である。邪気のようなものも感じるのは気のせいだろうか。

「別に人望が無くても仕事できるでしょー!」
「人望が無いは余計だ! 頭来たっ」
「大丈夫! 二代目ハンナちゃんより絶対好かれてるからー!」

岸和田の名誉のために追記しておくが、彼なりに菅のコンプレックス(だと思われる)を解消、励まそうとつい先ほどの言葉を叫んだ。しかし、彼にとってその言葉はあまり効果が無かったらしく、拳の動きは止むことを知らない。否、寧ろ“二代目ハンナ”と言う言葉が気に入らないに違いない。

哀愁漂う雰囲気が、幻の存在によりぶち壊されてしまった。
同時に、菅の心配事もすり替わってしまった。
励まそうとしたのに、何故こんな仕打ちを受けなければならない、岸和田は痛みと涙で滲む視界を目にし、二代目ハンナちゃんの威力をひしと感じたのであった。

*
マカロン様宅のこの二人大好きです。妻子持ちだけどMっ気のある菅さんが格好良すぎです。生真面目だけどそのギャップが大好きであります。
岸和田さんのあのひょうきんさや、ルックス、そして向日葵を溺愛している姿を見るとドキドキします。可愛い、すんごく可愛い。
二代目ハンナちゃん、携帯ストラップにして友達に自慢したいくらいです。友達3割が確実に減るのは承知の上です。でもあのインパクトに勝るものは何人たりとも居ないだろうきっと。
取り敢えず三代目ハンナちゃんと言うより、スガンナちゃんかな、と思ったあたいは硬い草の上に突っ伏して苦い肝を嘗めながらリベンジを誓うべきだと思いました。パッとこない。己のネーミングセンスが憎い。
マカロン様、素敵なお子様を書かせていただき誠に有難う御座いました!

因みにマスコットの意味:幸運をもたらすお守りとして身近に置いて大切にする物。多くは人形や小動物。また、企業やイベントなどのシンボルとなるキャラクター。「大会の―」「―ガール」「球団―」(大辞泉より)
……へーそうなん。







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