getgive | ナノ
「でもさ、慣れって本当にあるんだね。今もその優しさが怖いときがあるけど、何となく心地良いって言うか、あって当然だと思ってきた」 「何それ怖い」 「何よ人が正直に言ってるのに」 「正直すぎない?」
珍しく自分の思った事を饒舌に喋るメアリーを見て、興味がそそられたのかジュンは僅かながら身を乗り出そうとする。
「ほら、ジュンって“翼のもがれた天使”でしょ? わたし最近ジュンの言った意味が分かってきたかも」 「今更?」
疲れたかのように、しかし幸せそうにメアリーは小さな笑顔を向ける。そしてそれに興ざめしたかのように、勢い良く背もたれに身を預ける。ばふんっ、と椅子の悲鳴と共に鎖同士のぶつかる音が今のメアリーにとって、然程不快なものではなくなっていた。
「それなら」
取り敢えず言いたいことは言えたので、ジュンから背を背けあさってのほうを向いたメアリーだが、不意にジュンがメアリーに投げかけた言葉にまた振り向いてしまう。 そこに居たジュンは、半笑いで顎を軽く引き視線だけを上に居る彼女へと向ける。角度によってキラキラと変わる瞳を見て、今はアリスブルー、などといかにも暢気気にメアリーはジュンを見詰め返す。
生易しくかつ生温いにらみ合いが続く中、好奇心に満ち溢れたような瞳をしたジュンが純然無垢とも言える勝気そうな笑顔を見せる。無意識に体勢を立て直してしまうメアリー。
「それなら僕は“翼をもいだ天使”だと思うよ」 「は?」
しかし、彼の口から出た言葉は爆弾でもない、ただの不可解極まりない言葉であった。張り合いが抜けたかのように、肩をカクリと落す。どう言う意味かと問えば、ジュンはまた女の子のようにくすくすと笑う。
「え?なんか“翼をもがれた天使”の意味を感付かれて悔しいだけ」 「可愛いけど可愛くない」
ジュンもジュンで、言うだけ言ってしまえば後はもう身を椅子に委ねて目を閉じるだけ。 メアリーはそれを見てやれやれと言わんばかりに肩を落とした。
願わくば、この愛おしい二人に割れんばかりの喝采を。
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