初雪の降る夜


じじ、と音を立てながら行灯に灯した火が揺れる。
ほんの少しだけ空いている障子の隙間から肌寒い風が部屋の中に入る。
掛け布団から露出した肩を震わせながら三成は、じっと隙間を凝視した。
今夜は雪が降るのだと、確か家臣である左近が言っていた。
今年初めての雪だ。


「眠れないのか?」

三成の背中から低い声がぽつりと問いかけた。
その声の主は布団の中に仕舞い込んでいた手をだし三成の肩を包み込むと
「冷たいな」と甘く囁いた。
三成は振り返らずに、けだるげに口を開いた。

「こんな寒い日に、誰かのせいで裸で寝るはめになったからな」
「そりゃ悪かった」

大きな手で三成の細い肩を何度もさすると
ゆっくりと逞しい胸で三成の背中を抱え込んだ。
じわりと男の体温が三成の体を温めていく心地よさを感じて
三成は静かに目を閉じた。

「清正」
「ん?」
「夜這いも大概にしろよ」

数時間前、清正は三成の自室を訪ね
有無を言わせず組み敷いた。
どうしたのかと聞けば、抱きたい気分になったと自分勝手なことを言う。
清正と三成は、所謂男色の仲にあったがただ性欲を満たすためだけではなく
こいつのためなら命をやってもいいとさえ思える恋人であった。
が、性格が似て頑固で人一倍自尊心が高く意固地な二人である。
清正と三成の情事は性処理にちょうどいい都合の良い相手だと
どちらかが言い出したことを修正できないまま今に至っている。

「お前、忍城攻めを任されたんだってな」
「ああ…まぁな」
「うかれて、負けるなよ」
「俺を誰だと思っている」

三成は相変わらず清正に背を向けたまま目を閉じて
口だけ動かした。

「三成だから、心配してんだ」

静かに、しっかりと重圧のある声色で清正は続ける。

「この白い肌に傷でもつけられたら、抱きにくくなる」

三成の肌は男にしては透き通るように白く
弾力のある柔らかい肌をしていた。
薄い胸も、壊れてしまいそうな腰も極上と言えた。
清正はかるく三成の肩に歯を立てると
三成の下半身に手を這わせた。

「馬鹿、何処を触っている…ッやめろ…」
「お前がこんな肌してるのが悪い」

さすがに静かに目を瞑っていられなくなったのか
三成は清正に向き直り、自身の身体をもてあそんでいる清正を
キッとにらみつけた。

「大体お前はいつも勝手だ…」
「なら、やめるか」

清正が手を止め一呼吸おき

「この関係」

と続けた。


三成は一瞬何のことを言っているのか理解できずにいたが
すぐに、都合の良いときに慰めあう身体の関係であると理解し
言葉に詰まったが静かに口を開くと「そうだな」とだけ吐き捨てた。

「お前に振り回されるのも疲れる」

それは、身体的なことではなく心中の話であった。
清正は一度身体を許してからというもの理由をつけて
三成の体を貪り一人満足しては最後に甘い口付けを残し
愛だ恋だのという類の言葉は何一つとして三成にかけなかった。

それは二人の間で交わされた都合の良い身体の関係を壊さないためには
上手い抱き方なのであろうが三成はいつかその関係を
清正が壊してくれないかと心の底では期待していた。

ゆえに、清正が三成を求めるたびに心がざわつき裏切られた気分になる。
三成が勝手に期待し勝手に落ち込んでいるのだ。
そのことについて清正を責められるはずもなく、身体の関係を持ちながらも辛い片思いを
していた。

身体の関係を絶ち、この不器用な男の愛を渇望する思いを
断ち切ってしまうのも良いかもしれない。

三成はふっと笑みを浮かべ清正の顔を見つめた。

「好きな女でもできたのか?」
「いや、そういうわけじゃない」

清正は口を開き、何かを言いかけ言葉を飲み込んだ。

「何だ?」
「いや、気にするな。何も考えずもう一度だけ抱かせろ」
「最後か?」
「ああ…まぁ…」

三成は清正の唇に指を這わせ、ざらつきを感じふっと微笑んだ

「お前は生意気だな」

清正の乾燥した唇をぺろりと舐めると三成は体を起こした。
自身より幾分も逞しい肉付きをしている清正の身体をじっと見つめたあと
愛おしいそうに胸に指を這わせた。
そしてぎこちなくに清正の身体をまさぐり
丹念に愛撫を始めた。

首筋、胸、腰、雄、太もも、足
清正はされるがままだった三成が初めて自身を求めている
その姿を見て、今までにない興奮を覚え
その白く艶かしい体を壊れるのではないかというほど愛した。

何度果てたであろうか
清正が自身の感覚をなくしつつありながらも
三成の身体を離すことができず、何度も何度も精を注ぎ込み
すっかり暖かくなった三成の肩口を血がにじむほど噛んだ。

何日かしたら消えるだろう痕だが
三成を自分のものにした、という印が欲しくてたまらなかった。


三成は戦にでる。
武人としてそれは誉れあることであった。
秀吉に見出された才能を活かすこと、それが三成の生きる意味でもある。
清正もまた、自分を育て生かしてくれた秀吉のため豊臣に
殉じることに何の疑問すら持っていない。

だからこそ、怖い

三成が死んでしまったらと考えると清正は眠ることもできない。
そんな不安に苛まれる夜は決まって三成を抱くのだが
三成は心の伴わない情事に悲しそうな表情を浮かべる。
だが心を通わせてしまったら三成に溺れて自身でいられなくなるのではないかと
恐怖を抱き何も告げられずにいた。

三成のことを信じている、愛している、尊重もしている。

だが死なないでくれといえば、武士である三成を侮辱したことになり
三成自身に溺れることは、豊臣を思う同士として侮蔑されるであろう。



だから
離れるしかないと

清正は答えをだした。



「きよ、まさ…」

密やかに声をあげて、しゃがれてしまったのか
かすれた三成の声が清正を呼ぶ

「も、腹が、苦しい…」

三成の太ももには清正の精と三成の血が滲んだ液体が
とめどなく流れて汚している。

「ごめん、ごめん、三成」

清正は三成の顔を直視できなかった。
どさくさにまぎれて言えるかもしれないと期待していた
愛の言葉も結局言うことができなかった。
これが最後だ最後だと思うと自分で決めたことなのに
苦しくて切なくて三成から離れることができず
ぐったりとした三成の身体を力強く抱きしめ何度も名前を呟いた。
まるで泣いているかのような清正の声を朦朧とした意識で
聞きながら三成は、障子の隙間から見える初雪を眺めた。














忍城攻めは小田原城陥落により勝利を収めたが
水攻めの失敗、小勢の忍城に手こずったという事実が
三成の自尊心を切り裂いた。

「頭でっかちの野郎、ベソかいてるんじゃねぇの?」
「そうだな、ま、可哀想な三成にいたわりの言葉くらいはかけてやろう」

正則と共に三成の悪態をついた清正の心中は穏やかなものだった。
三成との関係は断ち切ったが、やはり戦で三成が死んでしまったらと
毎夜不安で仕方なかった。
そして、少しの間だが三成と離れてようやく自分には三成が必要だと
答えがでたのであった。
(三成が好いてくれる自分でいるためにも豊臣を守る。それで良いんだ)


「石田冶部少輔殿、只今帰参との知らせ!」

使者が清正と正則の元に三成帰参の知らせを持ってよこした。
清正は、久しぶりに会う三成に少しの緊張と愛しさを感じながら
愛していると伝えたら三成はどんな顔をするだろうと
想像しながら出迎えに歩みを進めた。





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3では忍城で三成が左近を勧誘しているので
清正が愛を告げようと思い立ったときには
既に遅しだと大変萌えます、て話です。
どこまでがエロなのかよくわからんです。

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