《枢木スザク、泡沫の夢》


ナイトメアを操縦しての巨大ピザ作り。
今年の学園祭の一番の目玉で、それを楽しみに来るお客様もいると聞き、僕は気が引き締まる思いがした。
失敗してはならない────そう自分に言い聞かせながら、材料の下準備を迅速にこなしていく。
ナナリーの『にゃ〜』からそんなに時間は経っていないけど、本番は刻一刻と迫っている。
ランスロットを操作する時と同じ感覚で手早く玉葱を切っていく。

「スザク。進歩はどうだ?」

涼やかで美しい女の子の声が後ろから。
一瞬ルルーシュに話しかけられたのかと耳を疑いながら、手を止めて振り返り、ギョッとした。

「え!? ルルーシュッ!?」

学園祭の出し物だろうか。なぜかルルーシュが女装していた。
いつかやった男女逆転祭のルル子が女子の制服を着て後ろに立っている。
あの時よりきらきらして見えた。
困惑の顔をしながら近づいてくる。

「ルルーシュ?
どうしたんだおまえ。人の名前を噛んだりして……」
「噛む……?
キミのほうこそどうしたんだよその恰好。
会長に命令されたの? 男女逆転祭の時は泣くほど嫌がってたのに」
「はぁ?」

心の底からの『はぁ?』だった。
困惑が溢れたような顔ですぐ目の前まで来る。

「スザク、大丈夫か?
同じ作業を延々とやって疲れたのか?」

かわいい女の子の声に唖然とした。
なんだよその声! まさかロイドさんが発明した変声機……!?
ルルーシュが心配そうにジッと見つめるからガクガクと頷いた。

「う、うん。大丈夫、ダイジョウブ」
「本当か? 無理はするな。
あいつがもうすぐ来るから交替してもらって休憩しろよ」
「ウン、ウン」

長い髪をふわりとなびかせてルルーシュは行ってしまった。
あいつって空のことかな?
その場にドシンと尻餅をつき、混乱して頭がぐるぐるした。
あれは一体何だろうあれは。
声がいつものルルーシュの声じゃなかった。女の子だった。

「疲れてるのかな僕……」

顔を両手で覆って浅く息を吐けば、走る足音が近づいてくる。

「うわっ! 本当に具合悪そうじゃん!!」

聞こえた声はリヴァルとは違う低い声。
初めて聞く男のものだった。

「ルルーシェに聞いたよ! すぐ交替するからスザクは休んでて!」
「ルル……えっ……!?」

バッと顔を上げて目を剥いた。
いつかやった男女逆転祭の空男が男子の制服を着ている。
そばに来るなり、しゃがんで目線を合わせてきた。

「立てる? 肩貸すから休憩所に行こう」
「あ、いや……大丈夫、ダイジョウブだから……」

間近で見る空男は男女逆転祭の時よりきらきらして見える。
でも疑りの目をジーッと向ける顔はいつもの空だと思ってしまった。

「……本当に?
巨大ピザ焼くのが自分しか出来ないって思って無理してない?」
「してないしてない本当に大丈夫だから!」
「そう。なら一回立って。
取りあえず外の空気を吸いに行こう」

差し出してくれた手を反射的に握る。
空の手と違う、細いけど大きい男の手だった。
立ち上がれば手を引かれてしまう。
部屋を出れば朝と同じ廊下だ。
しかし、全く知らない場所に迷いこんでしまった錯覚を抱いた。

「巨大ピザ焼けるのはスザクだけじゃないからね。
去年のやつ焼いたのはルルーシェだったってミレイが言ってたから」
「ルルー、シェ?
ルルーシュじゃなくて……?」
「……ルルーシュ? ルルーシェじゃなくて?
どうしてそんな呼び方してるの?」

心の底から不思議がっている顔をする。
どうしてはこっちのセリフだ。
むしろ全部がどうしてだらけで言葉に詰まる。
窓の外は朝より明るいけど、僕の心は暗かった。
空から視線を外した瞬間、手を軽く引っ張られた。
ぎゅむっと抱き締められる。

「大丈夫。
大丈夫だよスザク。今日は絶対良い日になる」

こんな風にギュッとされたのはいつだったろう。
ああそうだ。空と会って最初の頃だ。
元気が出るおまじないって。

目の前の空は僕が知っている空だ。
そう思ったら安心して、なんだかすごく眠くなる。
重いまぶたを抗わずに閉じれば、意識が遠くなって──────


──────ハッと目が覚める。
僕は生徒会室のテーブルに突っ伏して眠っていた。

「おっ。会長、スザクのヤツやっと起きましたよ」
「おはようスザク。ぐっすり寝てたわねぇ」

聞こえたリヴァルと会長さんの声に恐る恐る顔を上げる。
今、何時だろう?

「会長さん……どうして僕はここに?
学園祭は……」
「準備? それなら順調よ。
軍で疲れてると思うからもっと寝ててちょうだい」
「そもそもルルーシュ達がいないから今出来ることは何も無いんだよなぁ」

状況を把握できない中、頭を『どうして』が支配する。
それでもホッとしたのはリヴァルが『ルルーシュ』と言ったからだ。
僕が寝ていたテーブルには学園祭の草案が何枚もあって、あれは夢だったのか、と心がストンと落ち着いた。

すごい夢を見てしまった。
夢の内容をルルーシュに話したらきっと笑われるだろう。

「もうすぐ学園祭ですねぇミレイ会長」
「そうね。本当にあっという間」
「……会長さん。
僕、巨大ピザ作り頑張ります。絶対成功させてみせます」
「ヤル気溢れてるわねぇ。こっちも全力でサポートするからね」

この時の僕は思いもしなかった。
夢で見たルル子と空男が、まさか本当に文化祭で現れるなんて。


               終.
 
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