『ハロウィンの夜に見る夢は』
「あと1時間でハロウィンも終わりかぁ……」
昼間にやった『トリックオアトリート鬼ごっこ』を思い出し、面白かったなぁと一人で笑う。
ルルーシュはパソコンをカタカタさせ、C.C.はベッドでごろごろしている。
「なぁ知ってるか空?
ハロウィンはな、天国にも地獄にも行けない魂が、己の家を探してさまよう日でもあるんだ」
「……え? ハロウィンって幽霊がさまよう日なの? こっわ!」
「お前も幽霊になれるだろう」
パソコンをカタカタさせながらルルーシュは言う。
「あたしのあれは幽霊とは違うもん。
C.C.が言っているのはあれだよ、この前の夏に見た映画のあれ。
あんなのが出てくるんだよ。アァー!!って」
「あぁアレか。ルルーシュをビクッとさせた血まみれ呪い女か」
「……音に驚いただけだ。
あんなフィクション、現実では起こらない」
「あの時のルルーシュは面白かったね。
冷静に分析してツッコミ入れてばかりなんだもん」
「あの時のルルーシュはかわいかったな。
……なぁルルーシュ、今度は血まみれ呪い女が100体に増えて襲いかかる続編でも見るか?」
「俺は見ない。お前達だけで見ろ」
「え〜? ルルーシュがいるから面白いのに……」
ふと窓の外を見て、空に浮かぶ月がとてつもなく大きいことに気づく。
「どうした?」
「月がすごく大きいんだけど……」
部屋の中からだと全体が見えない。
「……ちょっと外行って見てくるね」
「ああ。気を付けろよ」
「見たらすぐ戻れ。もう深夜なんだから……」
「ふふふ。ルルーシュってお母さんみたい」
不満そうな目で軽く睨まれ、ササッと廊下へ逃げる。
今の時間でも廊下は明るいけど、とても静かだ。自分の足音しか聞こえない。
廊下を歩き、階段をおりて、まっすぐ玄関ホールへ進む。
外に出れば、ほんの少し肌寒い。
「上着持ってくればよかったなぁ……。
……月見たら帰ろう」
クラブハウスは明るいけど、外は夜の色でしっかり暗い。
月が見える位置まで歩いていく。
上のほうが欠けた月はすごく大きくて、色は明るい黄金だった。
「あれ? 誰かいる……」
視線の先に2人。木を見ている。
春になったら桜が咲くとミレイが言っていた木だ。
こんな時間に誰だろう?
月明かりで照らされ、姿がハッキリと分かる。
ルルーシュと知らないおじいちゃんだった。
「……ってルルーシュ!?」
いつの間に外に出たんだろう?
慌てて駆け寄れば、2人は振り返ってこっちを見た。
色あせた黒いコートを着るルルーシュを目にして、あれっ?と首を傾げる。
顔はルルーシュそのものなのに、別人だと一瞬思ってしまうほど、ひどい違和感を感じてしまった。
「……ルルーシュ。
いつ……外に出たの?」
ルルーシュは何も言わない。
泣きそうな顔で笑うだけだ。
懐かしいものを見るような優しいまなざし。
「……あの、さ、ルルーシュ。
隣にいる方は?」
お客さん? いやまさかこんな時間に来るわけない。
ミレイのお爺様だろうか? この学園の理事長の、今まで一回も会ってないから顔は知らないんだよね。
おでこの広い白髪のおじいちゃんは、目元のシワをさらに深くさせて微笑んだ。
目の色がスザクと同じ色だった。
「スザク……?」
思ったことがそのまま声に出た。
ビュウ!!と強い風が吹き、一瞬倒れそうになる。
おじいちゃんが何か言ったように聞こえたけど、葉の揺れる音でかき消されて聞き取れなかった。
吹いていた風が通り抜け、静けさが戻る。
何だったんだ今の風は……!
「……あれ?」
風に一瞬気を取られて、再びルルーシュ達に視線を戻したら、そこには誰もいなかった。
「えええ?」
右を見て左を見て、木の後ろも確認したけどやっぱりいない。
今のは一体何だったんだ?
確かに目の前にいたのに、まるで夢でも見ていたようだ。
「おい」
「ひぃ!!!!」
口から心臓が出るかと思った。
後ろを向けばルルーシュがいて、少し怒った顔をしている。
上から下をジッと見る。さっきのコートは着ていない。
パソコンをカタカタしていた時と同じ服。
「……ルルーシュ、一緒にいたおじいちゃんは?」
は?という顔をされた。
なにを言ってるんだお前は、という表情でルルーシュはあたしを見る。
「遅いから様子を見に来たが……。
……何かあったのか?」
ありました!!
と、言いたいけど、さっきのあれが説明できなくて口を閉じる。
何も無かったなんて嘘をつきたくなくて、黙ることしかできなかった。
ふわっと上着をかけられる。
わざわざ持ってきてくれたのか。
「……ありがとう、ルルーシュ」
「ああ」
そして手を差し出してきた。
月明かりに照らされるルルーシュが何だかすごく王子さまで、差し出してくれたその手に自分の手を重ねた。
「帰るぞ」
「うん」
握ってくれた手はあったかくて、外が寒いことを思い出す。
歩くうちにクラブハウスが近づいてきた。
「……幽霊でも見たのか?」
「え」
「C.C.がさっき言ってただろう。
今日は魂がさまよう日でもあると」
「うわぁ」
ルルーシュのドンピシャな指摘に感嘆の声がこぼれる。
ふっ、とルルーシュは笑った。
「出たんだな」
「う、うん。
出たんだけど全然幽霊っぽくなかった!
あそこにルルーシュがいて、あと知らないおじいちゃんもいたよ!」
「……狐か?
昔、スザクが言っていた。
狐は人間に化けてヒトを騙すらしい」
「狐……かぁ……」
それが一番しっくりする答えのはずなのに、納得できなくてモヤモヤする。
あのルルーシュとおじいちゃんは、あれは本当に狐が化けた姿だろうか?
絶対違う、と心から思った。
それじゃあ先ほどのアレは一体何だったんだろう?
クラブハウスに入れば、外が寒かった分、中は暖かく感じた。
手を引くルルーシュが足を止め、チラッとこちらを向く。
「……今日は一緒に寝るか?」
恥ずかしいのか、あたしが返事をする前にプイッと前方を向いた。
抱きつきたくなるほど嬉しい事を言うんだから……!!
「ありがとう、ルルーシュ。
一緒に寝たいな」
今夜はぐっすり眠れそうだ。
***
深夜0時半。部屋を暗くしたら、落ちるように眠りについた。
眠る前にあのルルーシュとおじいちゃんの事を思ったせいか、その2人が夢に出た。
満開の桜の木の下で、色あせた黒いコートのルルーシュとおじいちゃんと、なぜかゼロもいて。
幸せそうに笑っている夢を見た。
ハロウィンの夜に見る夢は
(ずっと先の未来の景色)