14話 /遠ざける意思


場所は司令室。
ヴィレッタは水泳部の顧問でプールに行ってるし、ロロはクラブハウスで待機、他の監視役は追い出して、広い室内はルルーシュひとりだけ。
テーブルの上のチェス盤で駒を動かしながら作戦内容を考えている。
敵として配置した白いチェス駒の中心にはピンクの折り鶴が……それはナナリーかな。
たくさんあるモニターのひとつ、今はニュースの映像が流れていた。
アナウンサーとコメンテーターがやり取りしてる。

『新総督は予定どおり明日、このエリア11に赴任されます。
新しい総督の名前や経歴は依然伏せられたままです』
『問題は中華連邦の総領事館でしょう。
ゼロの件ですね』
『はい。
公式発表がないため、高亥 ガオハイ総領事の独断ではないかという声もあります。
総領事の国内での立場はパワーバランスの……』

ルルーシュは映像を見ることなく、モニターを消した。

ピピピ、と音が鳴る。
C.C.と通信する時間だ。
ルルーシュがパネルを操作すれば、別のモニターにパッとC.C.が映る。
チーズ君を抱きしめてる。かわいい。

『ニイガタでの物資受け取りはうまくいったらしい。
しかし、この総領事館に戻る方法はないが……』
「……だろうな」
『新しい総督がナナリーか。
戦えるのか? 妹と』
「戦う? ナナリーと? それは何の冗談だ」
『では放っておくのか?』
「論外だな。
このままでは昔のように、ナナリーがまた政治の道具に……」
『歩けず目も不自由な少女を駒として使い捨てるつもりかな?』

ルルーシュは黒い駒を叩きつけるように置く。
目は怒りでギラギラ燃えていた。

「……そうさせないために俺は行動を起こした!! その為の黒の騎士団だ!!
ナナリーの為のゼロなんだ!!」
『それがおまえの生きる理由であることは知っている。しかし……』
「俺はナナリーが幸せに過ごせる世界をつくる。それが俺の戦う理由だ。
ナナリーを総督にはさせない。
その為に、ナナリーを太平洋上で救出する」
『……扇達に“救出”とは言えないな。
“奪取”と伝えさせてもらう。
送ってもらった今回の作戦内容は藤堂に渡すぞ』
「頼んだ」

C.C.とのやり取りを終え、ルルーシュは通信を切った。

《黒の騎士団が動くんだね》

海上で奇襲をかけるなら援軍はすぐに来られない。
ナナリーを保護するタイミングはそこしかない。
ヴィレッタの脅威も無くなったし、スザクさえ注意すればルルーシュは自由に動ける。

《ルルーシュ。
どんな作戦か分からないけど、あたしに出来ることを手伝わせてほしい》
《出来ること……》

ルルーシュは黒い駒を拾い上げ、目を伏せた。

《……無いな。
今回はラックライトのそばにいてくれ》

ルルーシュが無いと言えば本当に必要ない。
今回はお留守番だ。

《うん。分かった》

今まで指示をもらって動いていたから、物足りなさと寂しさが湧き上がってくる。
でも納得はできた。
戦場で集中するゼロに話しかけないほうがいいと思うし、別の作戦で何かしらの役に立てばいい。

《ナナリーを救出したら教えてね。
すぐ飛んでいくから!》
《言った場所に迷わず行けるのか?》

からかう笑みを浮かべるルルーシュに、ほんの少しだけ楽しくなった。


  ***


作戦決行日、夜明け前にルルーシュはクラブハウスを出た。
玄関先でロロと一緒に見送った後、あたしは政庁にまっすぐ飛んだ。

政庁の廊下を低空飛行で進み、“あたし”とスザクの部屋に行く。
お泊り会が開催されたのか。
スザクの隣のベッドでジノが寝て、“あたし”とアーニャが同じベッドで仲良く寝てた。
熟睡中の“あたし”に何度も重なってみたけど身体には戻れない。
夜明けと共に全員起床して、ジノとアーニャは自分の部屋に帰っていった。
 
黒の騎士団が水面下で動いている事を政庁の人間は誰も知らない。
スザク達は新総督が来る前に黒の騎士団を捕まえる為、全ての準備を整えてから出発した。
見送るのは“あたし”とおじいちゃん先生だ。
ルルーシュに言われてるけど……“あたし”のそばにいてくれって……。
……でも、今すごく気になるのはスザクのほうだ。あたしはすぐに追いかけた。

ナイトオブラウンズを乗せた車輌は中華連邦の総領事館で停まった。
降りたのはスザクとジノとアーニャだ。
門から出てきたシンクーさんと話すのはスザクで、ジノとアーニャは後ろで控える。
アーニャは降りても携帯を操作し続けている。
すごい余裕だ。なにをポチポチしてるんだろう?
覗き込んだら、ブログを更新しているようだ。

「いない? 黒の騎士団が?」
「ああ。我々も先程、確認したばかりだ。
情報は共有しよう。
これで我が国にはブリタニアに対する敵意は無いと分かっていただけるかな」

ジノは腕を組み、厳しい眼差しでシンクーさんを見据える。
“あたし”には一回も見せなかった表情だ。

「ゼロも一緒に?」
「そのようだ。
ナイトメアごといなくなっているしな。
地下の階層から立ち去ったようだ」
「一体どこへ!」
「さあ。そこまでは」

スザクは悔しそうに歯噛みして、ハッとした。

「まさか、ナナリーを……!!」
「やられたな」   

ポチポチしていた手を止め、アーニャは携帯からやっと顔を上げた。

「……お返し、する?」
「そうだな。
とびっきりのお返しをしてあげないと」
「トリスタンとモルドレッドはすぐ出せるのか?」
「両機いつでもいける」

ジノは人の悪い笑みをニヤリと浮かべる。
初めて聞く機体名だ。急いで空に昇った。
ゼロは作戦中だ。話しかけても返事はもらえないかもしれない。
それでも……

《ゼロ、こちら総領事館前!
あたしは今スザクのそばにいる》
《ラックライトのところには居ないんだな》

すぐに返事してくれた。
苦笑する顔が目に浮かぶ声。
スザク達は車輌に乗り込んだ。
政庁に戻るはずだ。走行する車輌を追跡する。

《スザクのほうが気になったの。
ナイトオブラウンズのマントをつけて軍務に出たから》
《総領事館なら、騎士団の退去を知ったところか?》
《うん。たった今。
ナナリーが目的だって気づいたよ。
他のラウンズの……ナイトオブスリーとナイトオブシックスもいる。
トリスタンとモルドレッドって名前の機体で出るみたい》
《専用機か》
《どんな機体か、何を装備しているか、見ただけでしか言えないけど……。
それだけでも伝えていいかな?》
《値千金の情報だ。
主力兵装や武装を分かる範囲で全て言ってほしい。
どんな機体か藤堂達に周知する》
《良かった。ありがとう》

ナイトメアの素人が上手く説明できるとは思っていない。
ロイドやラクシャータさんみたいに知識があれば良かったんだけど……。

政庁での起動準備と、実際に飛んでいる姿を見ながら、分かりやすさを心がけてルルーシュに全て伝えた。

まずはトリスタン。
白を基調としているけど、頭の角は金色、手足は青、翼?は赤。目立つ機体だ。
「変形ロボだ!!」とつい口走ってしまった。
戦闘機と人型の2形態あり、サイズは紅蓮弐式よりも大きい。
空を飛ぶフロートシステム機能付き。
肩慣らしのつもりなのか、死神の鎌みたいな武器をビュビュンと振り回して風を切っていた。
リーチが長くてヤバいと伝えた。

あとはモルドレッド。
トリスタンと違ってこちらは巨大ロボだ。
赤紫色で、他のナイトメアより幅が広くて肩もゴツい。
スピードよりも防御力重視みたいだ。
両肩の装甲の特徴と、起動準備の際に聞いた“シュタルクハドロン”の名称をルルーシュに伝えたら「ガウェインのハドロン砲よりも強力な兵器か」と結論を出してくれた。

どこにでも行けるし、なんでも見れる。
それでも出来ることは少しだけ。

今回の作戦であたしが他に出来たのは、フロートシステム付きのランスロットがアヴァロンから発艦したのを伝えた事ぐらいだった。


  ***


ナナリーを乗せていた旗艦が海上に墜落した。
今のあたしの目は、見たいと思ったら際限なく遠くまで見えてしまう。
ナナリーを大事そうに抱えて空を飛んでいったランスロットも。
フロートシステムで自由に飛べるようになった紅蓮弐式が、空に投げ出されたゼロを受け止めたのも。
騎士団の潜水艦の真上にいるあたしの目は、それらをクッキリと鮮明に見ることができた。

ゼロが伝えた作戦目的は“新総督を捕虜とすること”だ。
黒の騎士団の敗北に、潜水艦の中に入れないほど気が重くなった。
紅蓮弐式がゼロを運びながら戻ってくる。
すぐに寄り添った。

《ルルーシュ……》

名前を呼べば、何重にも重なったルルーシュの声がなだれ込んできた。
足がつかなくて水中で溺れたような感覚に襲われる。
唯一、わずかに読み取れたのは『話したくない』という感情。
時間が止まったみたいに動けなかった。

ゼロと紅蓮弐式を格納した後、潜水艦は深く潜って海上から姿を消す。

追いかけられない。
結びついていたものが解けたように感じて、ルルーシュの名前を呼ぶのを躊躇ってしまった。

待つしかない。
ルルーシュがあたしを呼んでくれるまで。


[Back][15話前編へ]
 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -