愛してほしくないわけない
誰かに依存して欲しいとか
自分を離せなくなって欲しいとか
考えたこともあるけど
跡部にそれを求めてるわけじゃない。





誰も居ない屋上のドア前の屋根の下で、雨を眺めながらお弁当を広げているときのこと。


「死にそうです」

「………何でですか」

「死にそうなものは死にそうなんです。」

「そうなんですか」

「……聞く気ないでしょ」

菊丸は不二がムッとしたのをみて苦笑いを溢した。
彼は今困っていてどうにもならなかった。

いやぁ今日は暑すぎるとか地球温暖化がどうとかが気にならないくらいに困っていた。

原因は言わずもがな目の前で目を伏せているちょっといつもより元気がなかった不二周助に

「どうかした?」

と聞いてしまったことにある。

そう。
不二本人は真剣なんだろうけど
ちょっとおセンチになって考えてまくって自分の世界に入っている不二ほど地雷に似たものはないと思っている菊丸は名一杯困っているのだ。

現に不二は先ほど彼が飲み干した緑茶の缶がくしゃりと自らの手に押し潰されているのに気がついていないのだろう。

昼休み終わったら大石に胃薬をもらいにいこうなど考えていれば不二はまた菊丸が無視しきれない言葉を溢してくる。

「…屋上から飛び降りてこようかな。」

「……グラウンドでテニスしようかな。みたいに軽く言うなよ…」

菊丸がため息を我慢できずに漏らせばすっと不二が開眼する。

「そんな心境なんだよ」

今度は不二がため息混じりだった。

「なに、跡部とケンカでもしたのかよ?」

「ううん。ケンカで死ぬほどヤワじゃないよ」

「跡部の方が殺されそうだからね」

「なんか言った?」

「いえ…」


そう。本当に、考え込んでいる不二ほど爆弾に似たモノはない。
だけど、どうせ付き合ってるならもっと仲良くしてほしい、と菊丸は口を尖らせた。


「ねぇ、英二。
溜めとくより吐き出したほうが楽になるってこともあるよ」

不二の言葉に菊丸は猫目を大きく見開いた。
不二はいつもと変わらね無表情。
菊丸は目を伏せて自嘲ぎみに笑った。

「ふぅーん。その子、彼氏いるんだ?」

またも菊丸は目を真ん丸にした。
やっぱり彼は無表情。

「……言わねぇ方がいいんだよ」

「…でももしその子が気づいてたら?」

「……!!」

「言わない方が酷なんじゃないの」

「……俺は今のままでいてあげたいんだよ。その方がアイツのためだから……」

ほとんど最後の方が聞き取れないような小ささの声に、不二が目をスッと開いた。

「…その子も辛いまま、待ってるんじゃないの?」

菊丸は言い返そうと顔をあげて、そのまま固まった。
不二のさっきまで無表情だった顔が、悲しみに染まっていたから。

さっきの言葉が自然と耳を右往左往する。

『彼氏いるんだ?』

『もしその子が気づいてたら?』

『言わない方が酷なんじゃないの』

『…待ってるんじゃないの』


「………ぅん…」

そっか

「………うん…」

そっか
俺ってそんな顔させてたんだ?
好きな子にそんな顔させてたんだ?
さっきからずっと俺に助け求めてたんだ。

「……いつから?」

「僕が跡部と付き合ってるって言ったときから」

「……長かった?」

「墓場まで着いていこうかと思いました」

「……そー。」



菊丸はほんのり羞恥を滲ませながら、不二を見つめた。

「………不二ぃー」

「何?」

「大好き」


不二は嬉しそうに笑った。
ニッコリ笑った。


そして

この曇り空に
一つの淡い何かが
パンと弾けて消え去った。






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