あれから5年が経ち、俺は5歳になった。
早いって?気にしたら負けだ。
5年たった今、俺は宣言通り自由に生きて――はいなかった。
俺は反ラジエル派貴族の王権争いなどに巻き込まれたり、隣国のスパイに何度も殺されかけられた。
だから俺は姫としてではなく王子として育てられた。
ま、その方が俺にも好都合だったけどな。
オレは王子だから――
あれはダメ、これはダメ。ダメダメダメ。
口を開けば出てくるのは抑制か、媚びを売ってくる言葉ばかり。
自由とは名ばかりの籠の鳥。それがオレたち。
いつもいつも自由を夢見てる。
ソファーに寝転がって天窓から見える空を眺めていると微かな足音、次いでノックの音が耳に届いた。
「ベル様、お時間になりました」
「ん」
今日はオレとジルの執事を決めるらしい。
決めるって言っても、もうほぼ決まってるようなものだけどな。
今回新しく登用されたのは2人だけだし。なんなら別にオレは執事なんて要らねーし。
ってことで向かったふりしてそのままエスケープをする。
色々な制限がある中動き回って最近やっと見つけた絶好の隠れ家に向かう。
ここはジルも知らない。伝える気もない。
「んー、やっぱここは気持ちいいなー♪」
澄み渡る空、穏やかな風。
同じ城の敷地内とは思えないほど澄んだ空気。
軟弱な貴族達なら入ろうとも思わない鬱蒼とした森林の奥深くにここはあった。
「ん、ふわぁ〜ぁ」
今のアクビで張り詰めていた緊張の糸が溶けていくのが分かる。
王位争いの中、いつ殺されるかもわからない王宮で心休まる時は1秒たりともなかった。
だからここへ来ることは、俺のちょっとした楽しみでもあった。
トロトロと瞼が落ちて行き、穏やかな風も相まって俺は夢路へと誘われた。
《鬼さんこーちら♪手の鳴る方へっ♪》
《こら待て!》
懐かしい夢を見た。
俺が前いた世界で、あいつらに引き取られて間もない頃―――まだ俺が私と言っていた頃。
1度だけ、兄貴が1日中遊んでくれた時があった。今になって考えれば期末テストの真っ最中だったにも関わらず、よく遊んでくれたものだと思う。
初めは鬼ごっこ。足には自信があったけど小5と高1。すぐに捕まった。
《こーら、捕まえたぞ》
《ちぇー、捕まっちゃった。じゃあ次、隠れんぼ!見つけられるもんなら見つけて見やがれっ!》
《はぁ…どこでそんな言葉を覚えてきたんだか。あー、時間は30秒な。それじゃ始めるぞー。いーち、にー、さーん――》
夢はそこで終わり、目を醒ますと知らない奴が立っていた。
「――見つけた」
そう言って微笑んだその顔が、何故かあの時の兄貴に重なって見えたのだった。
Gabbia per uccelliー籠の鳥ー
コツコツ、カツカツ、2つの足音が長い廊下に響いていた。
歩いているのは十代半ば辺りの青年と十代前半と思わしき少年。
2人とも執事服に身を包んではいるが、慣れぬ様子にまだ新米の執事だと言うことが伺える。
「あなたも王子に仕えるべくして登用されたのですか?」
「はい。あなたも?」
「えぇ。お互い気に入られるといいですね」
「そうですね。」
2人の頭に過ったのは城下でまことしやかに囁かれている噂。
曰く、王子の機嫌を損ねればサボテンにされる。曰く、王子達のケンカに巻き込まれれば命はない。等々。
今日の我が身を思って青年は身震いする。
そして少年ーーアルフォードはというと_
うおー!遂に生のラジエルとベルフェゴールに会える!
顔には出さないが、内心で大興奮していた。
嘘のようで本当のことだ。
何故ならアルフォードもまた原作知識を有した転生者だったからだ。
事の真相は約数時間前に遡る。
『ここ』へ来てから約11年。つい先刻、俺はようやくここがどこの世界かを知った。
きっかけはある1つの父さんの発言。
「おぉ、そうだアルフォード」
「あ?何だよまた新しい武術でも習えってか?」
それまで俺は、何故かは知らないが古今東西あらゆる武術を身につける旅に出ていた。
というか放り出されていた。1つ学んではまた叩き出されて、の繰り返しでようやく帰宅の許可が出されてつい1ヶ月ほど前に帰ってきたばっかりだった。
そんな中、父さんから言い渡されたのは...
「いや、お前今から城行ってジル様とベル様に仕えてこい」
「は……いや、は!?もしかしてラジエル、様とベルフェゴール、様か!?」
「何だ知っていたのか」
あっぶねぇ!危うく様を抜かすところだったぜ。父さんって普段はとてもいい加減だが礼儀にだけは五月蝿いからなぁ。
この1ヶ月で鬼のスパルタで叩き込まれたんだ、もうあの地獄は嫌だ。もう1度叩き込まれるくらいなら修行してた方が何倍もましってものだ。いや、修行は修行で血反吐吐いたけど。
というかここREBORN!の世界だったのか!
REBORN!クラスタとしては気付かなかったなんて何たることだ…!
ん?ってことは父さんが色んな武術身に付けてこいって放り出した後に、礼儀作法叩き込んだのはつまりこの為か!?
「な、なぁ父さん。俺に色んな武術を身に付けさせたのって…」
「察しがいいな。その通りだ」
「マジかよ…」
「ほらとっとと行ってこい」
「へいへい」
と、こんなやり取りがあって言われた通り城に来てみた次第だ。
でも来たのは俺だけじゃなくてもう1人いるけどな。
俺以外の執事っていったらオルゲルト何だろうな。もしかしたら原作には出なかっただけでベルフェゴールの専属執事もいたんだろうけど、ここには居ないしな。
しかしオルゲルトが若い。まだ十代だよな?俺よりは年上だろうけど。
そんなこんな、俺たちは短い会話を交わすと、目の前にある今後の未来を決めるであろう運命の扉をくぐり抜けたのだった。
さて、お…私はどちらに仕えるのでしょう
あなたは呑気ですね
そんなに気負いすぎても疲れるだけですので
確かに一理あります