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苦しい
息が…出来ない…

空気を求めて口を開いても入ってくるのは水ばかり。

じわじわと浸食していく闇にまるで存在が喰われているよう。
いや…強ち間違いではないかも知れない。


どうしてだろうか。
一体どこで間違えたのか、そもそもが間違いだったのか。

オレは兄貴じゃないのに。
兄貴の代わりなんている筈がないのに。



もう、疲れた……。



気泡と共に声にならない声でそう呟く。

これまでオレは立派に勤めた筈だ。
兄貴の代わりとして。息子として。そして何よりも


―――あいつらの『道具』として。


いい加減、もう良いよな?
オレだって十分貢献したんだ。他の皆とだって話をしたいし遊びたい。


だけど


「もう要らない」ってか。


所詮、人間はそう言う生き物だもんな。
役に立たなくなったモノは廃棄。新しいモノに変えればいい。



別にオレはこの世に未練があるわけでもない。
こんなつまらない世界が終わるのならばむしろ大歓迎だ。


あぁ、でも…
もし、わがままを言っても良いのなら俺は




オレが、俺自身で居られる退屈しない自由に生きられる世界に生まれ変わりたい




Inizio-始まり-




「上手くいったか…?」


オレはとある掲示板の前でそう呟いた。
前髪の隙間から垣間見る紙には『期末テスト』の文字。

470人中127位。
これまでの中でも過去最低の結果になる。でも、これでいいんだ。

あいつには悪いことをしちまった。怒るだろうなぁ、きっと。
だけど今回だけはどうしても…。


すると、掲示板の前方の方でざわめきが起きた。恐らくあいつに今回の結果が伝わったのだろう。
段々とざわめきが近付いて来ていることが判る。


「おい!お前ッ何だよアレッッ!」

「ッ…何って見た通りだぜ?良かったじゃん最後にオレに勝てて♪」


あいつを前にして、決意が鈍りそうになるのを唇を噛み締めて堪える。

それに、謝るなんてオレの柄じゃないしいつも通りの方が心配かけなくて済むだろう?
なんのかんの言っても、あいつは結構世話焼きで心配性だしさ。

きっといつもみたいに「ふざけんなっ」って噛みついて来て有耶無耶に出来ると、そう思っていた。
だけど…


「お前…」

「…んだよ。いっつもみたいに怒らねぇんだ?」

「怒りたいさ。怒りたいとも。でも、正直認めたくないがお前の方が僕より頭がいいんだ。今回学期末で範囲が広くなってたとしても、お前だったら余裕で解ける範囲だ」

「いーや?本当に解けてないのかも知れないぜ」

「それは無いだろうさ」


何でそう言い切れる。
顔はヘラヘラと笑いながらも前髪の奥で目だけが細まったのが判ったのだろう、鼻を鳴らして憮然とした表情で見据えられる。


「ここに来る前に用があって寄ってきたんだ、職員室。その時は何の事だか分からなかったけどここに来て謎は解けた。お前が全教科で平均点を狙ったってな」

「それは買い被りだっての」

「買い被りだ?誤魔化す気があるならもっとましな嘘をつけ!でなければお前があんな点数取るなんて、天地がひっくり返ろうが校長のカツラが取れようがあり得ないだろ!」

「校長のカツラって…変な例えが入ってた気がするんだけど。ま、そこまで俺のこと買っていてくれたんだな♪嬉しいぜ」

「例えは気にするな、そして茶化すんじゃねえ。それにまだ3学期も残っているんだ最後だなんて言うな…それじゃまるで_」


まるで?


まったく、どうしてお前はそう勘が鋭いんだか。
今まで本当に俺のことを見てくれたのは2人だけだった。それが本当に嬉しくて、素の俺のままでいられた。

だからかも知れない。


「それじゃまるでお前が_」
「なぁ」

「何」

「そこまで言うのなら次こそ、真剣勝負、しようぜ♪」

「あのな、僕はいつでも真剣なんだが?」

「そんな堅いこと言うなって♪」

「まったく…」


オレらしくもない、絶対に果たせる筈のない約束をしてしまったのは。

いつの間にか人の気配がなくなった掲示板の前で視線を交わしあう。
程よい緊張感が心地好かった。

しかしその時間も長くは続かず、硬質なチャイムが切り裂く。


「っと時間!じゃあ約束忘れんなよ、またな!」

「おう、"じゃあな"」


ひらりと手を振り背を向けて歩き出す。
それが、俺のただ1人の親友と交わした最期の言葉となった。




嘘だろ、おい……

約束ッ…したじゃねぇか!!

馬鹿野郎ッッ!


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