深夜一時半前。お弁当とお茶を買ったサラリーマンが帰り、上を向いて両目に目薬を差す。一時的にすっきりするがとてつもなく眠いのには変わりない。何度か立ち寝してローくんに怒られた。業務に慣れてきたとはいえ高校生の深夜勤務を許すコンビニはどうかと思う。

「こっち終わったぞ…おい寝るな」
「寝てない寝てない。目薬染み込ませてただけだよ…ねえローくん、ウェイ系大学生の団体来たらどうしよう。まだ春休みみたいだしだるいよ」
「適当にやっとけ」

大きな欠伸をしながら仮眠の為休憩室へ向かうローくんにも疲労の色が見える。だがこんな事になったのは君のせいじゃないか。しかもよりにもよって疲れが溜まっている金曜。普段ならとっくに爆睡している時間だ。いつまでも文句を言っててもしょうがないのでパンの陳列作業を再開するが、暫くの間接客とその他諸々を一人で行わなければならないと思うと気が滅入る。普通に面倒くさい。このままお客さん来ないでくれ…と願ってる時に限って来店チャイムがピロピロ鳴る。

「いらっしゃいませこんばんはー」
「そんな気無いなら最初から優しくなんかしないでよ!」

お客さんがレジに向かうタイミングで私もレジに走ればいい。そう思ってやる気のない挨拶をした矢先、女性の怒号と乾いた破裂音が静かな店内に響いた。何事かと音の根源に目をやると自動ドアの前で金髪のお兄さんが頬を押さえている。え、ビンタされたの?大変な場面に遭遇してしまったらしいが、それより何だこの王子様みたいな人は!じろじろ見ていたら目が合ってしまった。

「あー…うるさくしてごめんな」
「いえとりあえず冷やした方が…ちょっと待っててください」

保冷剤なんて気の利いた物あったっけ。一応冷凍庫を開けてみたがバイト後に食べようと置いていたカップアイスしかない。…何もしないよりかはマシだろう。自分のハンカチでくるくると包んだ。

「バタバタうるせえぞ寝れねえ」
「やばいよローくん王子様が来た!私王子様の接客なんてした事ないよ!」
「おれもねえよ」

机に突っ伏したまま微動だにしないローくんの肩をガタガタ揺さぶると、うぜえから早く戻れと払い除けられた。ひどい。急いで休憩室を出ると彼はカウンターに寄り掛かっていた。

「ごめんなさいこんな物しか無くて。持って帰って冷やして食べちゃってください」
「…アイス?逆に貰っていいのか?」
「是非。あ、抹茶お嫌いですか?」
「ふっ…いや食える、ありがとな」

頬を冷やしながら品の良い笑顔を見せるお兄さん。それにしてもジーンズにシャツというシンプルな服装なのにさまになっている。真夜中にもかかわらず爽やかで本当に王子様みたいな人だ。

「痛みますか?」
「大丈夫だ。勝手に寄って来られて困ってたからかえって良かったよ。女を邪険に扱う事なんて出来ねえし。てか見た限り高校生…だよな?」
「バイト仲間にシフト提出頼んだら何故か夜勤にされてたんですよ。今も眠くて眠くてしょうがないです」
「へえウケる」
「真顔で言われましても…」

店内の端から戻って来たお兄さんがカウンターに紙パックを置いた。バーコードを読み取ろうとして思わず手が止まる。

「袋いらねえから…ん?ああ身分証か」
「そういうわけじゃ…ご協力ありがとうございます」

千円札を受け取りお釣りを渡すとお兄さんはそのまま小銭をレジ横の募金箱に突っ込んだ。彼は庶民の暮らしの視察しに来た王子様とかそういうのなんだろうか。しかしストローを差した飲み物は紙パックの焼酎で平然と飲んでいる。何なんだこの人は。

「合法ですか?」
「は?…だいぶイッちゃってんな。朝まで大丈夫そうか?」
「準夜勤なんで三時までです」
「もう少しだけ頑張れよ」

ひんやりと冷たい感覚が頬を襲う。お兄さんがアイスを押し付けてくれたみたいだ。証明写真まで爽やかな王子様は再度お礼を言って一人帰って行った。あの日ハンカチさえ渡さなければ…と後悔の念に駆られる日が度々やって来る事を私はまだ知らない。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -