ときめきに

じめじめと蒸し暑い夜の事。フル稼働していた冷房がガゴンと嫌な音を立てて停止したのが二日前。それから復旧する目処がなくバルティゴ本部に残っている者は皆して疲労困憊、簡易ゾンビが続々と出来上がっていた。このままじゃ死ぬ。そういう時に限って任務に振り当てられないのは普段怠けている罰が当たったのかもしれない。

「おーいサボくーん」
「なーにナマエちゃーん」
「まだかなー」
「あと少しー」

長ったらしい文章を書く手を止める事なく誰かが忘れていった懐中時計を見てサボは言う。長い梯子を使わなければならないほど天井まで縦に大きい本棚が並んでいる書庫は比較的暑さが少なくて二人で逃げ込んできた。一度提出した報告書に不備があって突っ返されたらしく、ついでにやってしまいたいのだという。え?ナマエは手伝わなくていいよ。余計ややこしくなるからな。万年筆が軽快に紙をなぞる音を聞く度にサボの手首には天使の羽が付いてるんじゃないかと昔から思っていた。

「眼鏡掛ける時のサボって結構好きだよ。銀のフレームが一番似合う。…そのキメ顔は微妙だけど本当にかっこいい」
「今頃気付いたってもう遅えよ。おれはおれのままでいるのに。お前の知らぬ間にどっかの誰かのモノになってるか、も、な」
「え!やっぱコアラちゃん?」
「それはどうかな。まあコアラからはこの眼鏡不評だよ。サボくんどうしちゃったの?胡散臭いからやめた方がいいよ?だってさ」

晩餐会でも開くのかと思う程長いテーブルの脇に置かれているソファから作業とたまに横顔を眺めていたのだが長年の仲だ。マドレーヌの味が変わっても私達の関係は変わらない。「さあ終わりだ」と立ち上がったサボに倣ってうつ伏せの状態から起き上がって伸びをする。サボ曰く八時頃には、人が集まるフロアから順に冷房が無事に動くようになっていたらしく廊下に出ると遠くから歓喜の声が聞こえてきた。

「いっその事新調してもらいてえよな」
「最初に温風出るし変な匂いするもんね。あ、こっちまでちょっと涼しくなってきてる。…ねえ、ところで何でまだ眼鏡してるの?」
「こういうのが好きなどっかの誰かのモノになってもいいかなって思ってな。何だよ?その顔は。ちゅーでもしようか?」

そんな事言われたら死ぬ。





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